彼の素顔は甘くて危険すぎる


(不破視点)

顔を洗い終わった彼女は、鉛筆などを片付け始めた。

「この人、……彼氏?」
「え?……ううん、違うよ。彼氏なんていないし。ってか、ちゃんと会話したの初めてかも」
「あ……ん」

しまった。
つい話し掛けてしまった。
ま、いいか。
いつもの御礼ということで。

「アメリカ帰りだから、日本語苦手なんだと思ってたよ」
「………へぇ」

そう思われてたんだ。

「彼氏じゃないなら……?」
「………王子様」
「へ?」
「少し前にね、悪い人から救ってくれた、……王子様なの」
「………」

コイツ、頭イカれてる。
高校生にもなって、王子様って。
痛い奴じゃん。
その、王子様とやらは、今目の前にいるけどな。

「本当の王子様とかっていうんじゃなくてね、何ていうか………うーん」

自分で描いた絵に視線を落とし、何やら考え込む彼女。

「不破くんは見ても分からないだろうけど、この黄金バランスとも言える比率がそれを物語っててね?」
「???」

言ってる意味がわかんねぇ。
何のバランス?
曲にも音階や調とかあるのと同じってこと?

「顔で言うならパーツの配置バランスや大きさの比率、体も同じで部位の位置や左右のバランス。それらを活かす骨格や筋肉の量とか、とにかく全てのパーツが理想を超える感じでね。そんな人、今まで見たことなくて……ついつい描きたくて止まらなくなっちゃうのっ」
「へぇ」

あの一瞬の出来事でそこまで見極められていたとは。
それに、そんな風に思われて描かれていたとは知らず……。
恥ずかしいもんだな。