(ひまり視点)

クラスメイトの成瀬 剣は、見た目は爽やか美少年なのに、墨汁のように染みつくほどの腹黒さ。
態度で拒否を示してるのに、完全に無視出来るほどの自意識過剰で傲慢な男。
簡単に自分の思い通りになると勘違いしていて、毎日私を監視下に置いてる。

不破くんとの関係を清算するように仕向けられ、仕方なくデータをUSBに移し替えて全消去した。
今私の手元にあるスマホには、彼との想い出も連絡先も何一つ残っていない。

自宅にあるUSBの中と私の脳と心には不破くんは存在するが、それを口にすることも許されない。
完全に忘れ去ったと偽って、毎日地獄のような日々を過ごす。

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連休前日の放課後。
いつものように空き教室でデザイン画を描き始めると、突然目の前に彼が。
目を細めて舌なめずりする表情が目に余るほど厭らしくて。
無意識に距離を取ろうと椅子から立ち上がり、後退りする。
けれど、そんな私を追い詰めるように距離を縮めて来る彼。
危険を感じて両手を伸ばして体を押し返そうとするも、その手を掴まれ壁に押し付けられた。

どんどんと近づく彼の顔。
綺麗な顔立ちが悪魔のように歪んで見える。
彼の唇が迫って来て、必死に顔を背けてそれをかわす。

不破くん以外の人とキスしたくない。
不破くんとの記憶が消されてしまいそうで……。

両手を掴まれたままで身動きが取れない。
掴まれた部分が痛みを帯びる。

不破くんとの約束。
こんな風に簡単に他の男の人に許しちゃダメだって言われてたのに。
彼の言葉を思い出し、体に力を入れて抵抗する。
不破くん、助けて……。

心の中で彼に助けを求めた、その時。