(ひまり視点)
「あっ、不破くん、もう平気なの?」
「………」
「良かったぁ。荷物持って来てあるからね」
「………」
「自力で帰れそう?無理なら先生が家に連絡するって言ってたけど」
「………」
「じゃあ、帰ろうか」
「………」
彼はすっかり良くなったみたい。
いつもみたいにコクコクと頷いてる。
「あ、そうだ!……これあげる。お腹空いてるんじゃない?お昼食べてないしね」
最近、話す代わりに彼に飴を渡している。
咳き込んでるのもあるし、ガラガラ声なのも気になるから、少しでも喉を労わるように。
それに、昼食を抜いたから低血糖になって倒れたりでもしたら、それこそ大変。
自宅が小児科ということもあって、家にはたくさんの飴が常備されている。
もちろん、トローチもあるんだけど、勝手に薬剤を持ち出せないから。
こうしていつも飴を沢山持ち歩いて、彼が咳き込んだりしたら手渡すようにしてる。
隣りの席だから、いつでも渡せるしね。
マスクを少しずらして、飴玉を一つ口に放り込んだ彼。
その唇が、デジャヴのように見えた。
何でだろう?
今凄く色っぽく見えたのは……。
あ、そうか。
イケメン王子の描き過ぎだ、うん。
毎日のように暇さえあれば描いてるから、脳からの残像を感じたんだ、きっと。
「うっわっ、酷すぎっ……」
手を洗うために保健室内の水栓を捻った、その時。
目の前の鏡に映った自分の顔が恐ろしいことになってた。
「不破くん、これ見てよく笑わずに堪えれたね」
頬にシャドーを施すみたいに黒い線が出来ていた。



