彼の素顔は甘くて危険すぎる


翌日の22時半過ぎ。
シャワーを浴び終え髪を乾かしていると、スマホの着信音が鳴り、慌ててそれに出る。

「もしもし?」
「不破くん?夜遅くにごめんね?」
「ん、大丈夫」

いつもならテレビ電話なのに、今日に限って音声通話。
それがほんの少しだけ気になりつつも、連絡をしてくれた事が嬉しくて、ついつい頬が緩む。

「絵、捗ってるか?」
「あ、……うん」

歯切れが悪い。
スランプにでも陥ってるのだろうか?

「今週の土曜日の昼過ぎにレコーディングするんだけど、スタジオに来るか?」
「あっ、………ごめんね、行けそうにないかな」
「根詰めすぎじゃね?少しは気晴らしでもした方がいいぞ」
「……うん」

いつもの明るいトーンではない。
何となく憂いがあるように聞こえる。
耳はかなりいい方だから、声一つで大体分かる。

他愛ない話をしようとした、その時。

「あのね」
「ん?」
「………」
「………どした?」

話し掛けて来たのは彼女なのに、言葉に詰まっている様子。
何か言い出しにくい話なのだろうか?

GWを目前に控え、連休中に少し遠出でもしようかと考えていた。
その話題でも出して、少し気分的に変えようかと思った、次の瞬間。

「別れたいの」
「……え、今何て?」
「……もう、会いたくないの」
「何で?理由は?」

耳を疑うような言葉に衝撃を受けた。

毎日通い妻みたいにさせたせいで疲れてしまったのかもしれない。
堂々と恋人同士として歩けないことが嫌だったのかもしれない。
休みの日にもレコーディングや編集に付き合わせて、どこかに連れていってあげなかったから悲しかったのかもしれない。