彼の素顔は甘くて危険すぎる


買出しに出かけて、お昼ご飯は外で済ませた。
さすがに3食作らせるのは気が引ける。
それに、給仕させるために来させたんじゃない。

「ひまりの誕生日って、いつ?」
「誕生日?……8月2日」
「夏休み中じゃん」
「うん、そう。私の方が半年ちょっとお姉さんだよ?」
「おっ、じゃあ、もっと甘えよっ」
「え」

買い物袋を手にして、自宅マンションのエレベーターホールで待ってる最中。
中々降りて来ないエレベーターのフロア表示を見上げながら、彼女をぎゅっと抱き締める。
普段はただ抱き締められてるだけの彼女が、今日は特別仕様なのか。
俺の背中に手を回して来る。
誕生日仕様って凄まじい威力だな。

「ちゅーさせて」
「……それはダメ」
「何で?」
「誰かに見られたら困るじゃない」
「見られなかったらいいの?」
「えっ……」

エントランスホールにもエレベーターホールにも人気は無い。
監視モニターはあるにせよ、誰かに見られてることはない。
それでも、人の目を気にする彼女。
こういうところが結構好き。

誰彼構わず、人目も気にせず、ベタベタと甘えるような前の彼女と比べてしまう。
アメリカ人というのもあるかもしれない。
だけどやっぱり、本質的な部分は日本人だから、自然と奥ゆかしさを求めていたんだと思う。

それに比べたら対極にいるのが、この目の前の彼女。
この前なんて、キスしようとしたら手で口元を覆って拒否しやがったし。
それはそれで闘争心ってもんに火が付くんだけど。
そんな奥手な彼女を虜にしたくて、目下奮闘中。

「じゃあ、ちゅーして」
「ちょっ、意味わかんない。ハードル上げないでッ」
「ちぇっ」