彼の素顔は甘くて危険すぎる


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彼の誕生日まであと1週間。
プレゼントするものは決まったけど、まだ仕上がってないものもある。

彼の自宅から帰宅して、お風呂に入ってから始めるのが日課になったコレ。

空気清浄機フル稼働でアクリル絵の具を紙パレットに出して色を調整。
ステンレスのケースに予め金属用のプライマーのメディウムを塗布して下地準備を施しておき、それに細い筆で絵を描いてゆく。
油絵と違って塗り直しが利かないから、失敗した時用に幾つも用意してある。

他にもプレゼントするものはあるけれど、既に手配済みで、残りはコレと彼希望のチョコレートトリュフ。
それと、当日に作る料理くらい。

だから、今一番手を抜けないのがこの絵だ。

白い龍といっても、陰になる部分や動きを出すための明暗。
それとほんの少し迫力を出したいから青をほんの少し混ぜて。

既に一週間費やして出来上がったのが3つ。
微妙に物足りない。
何が足りないんだろう?

夜のアルカションの海に出現した白龍。
天に昇る様を描いたけれど、物足りなさを感じる。

「月?……夜の空には月が必要だよね」

独り言で自分に問いかけながら、満月を描き入れてみる。
ある方が躍動感が出た。

「よし、これでいこう!もう少しアングルを変えてみて、上手い具合に収めなきゃ」

試し塗りを何度も繰り返し、一番似合う色を探し出す。
満月といっても色一つで表情が変わるから……。

「ひまり~、そろそろ寝なさいよ~」
「はぁーい」

母親に空返事をして、作業続行。
何としても間に合わせたい。