「え……ここは一体……?」
瀬戸のおじさんから教えられていた場所に向かうと、そこにはなんと……。
――大豪邸!!
セレブのお屋敷みたいな場所。
同中の同級生からスマホで見せてもらったことがある……。
ホラー実況に出てきそうな洋館。
私は思わず、口をあんぐり開けて見てしまった。
「何回見ても、住所に間違いはないし……」
だけど、困ったことに……。
「『大瀬戸』って書いてある……」
間違いかな?
でも、「瀬戸」は「瀬戸」だし……?
住所は間違いじゃなさそうだし……。
「女は度胸よ!」
思い切ってえいっとボタンを押してみる。
ピンポーン。
インターホンの音は聞えてきたけれど……。
「………………」
…………シーン。
全く反応がない。
しばらく待ってみたけど、音沙汰なし。
そう言われてみれば、どう見ても広い家なのに、庭なんかにも人気がない。
(幽霊屋敷とかだったらどうしよう……)
そんな風に考えていたら、なんだか怖くなってきた。
(だけど、どうしよう。メモに書いた住所の書き間違い……? もうアパートも追い出されたし、行く当てがないよ……)
困っていた、その時――。
「おい、俺んちに何のようだ?」
「ひええっ……!」
突然、背後から低い声が聞えて、身体がビクっと大きく跳ねてしまった。
恐る恐る振り返る。
声をかけてきた男の人の顔を見て、びっくり……!
「あ、お前、さっきの……」
「あ、あなたは……」
立っていたのは、さっきのコワモテイケメン……!
「どうして、お前がここに立ってるんだよ?」
「ええっと、それは……その……このお家に用事があって」
「はあ? だから、なんで俺んちに用事があるんだよって言ってんだよ」
「……俺んち?」
その言葉を聞いて、私は思わず目を真ん丸に見開いた。
「ええええっ!!!!???」
自分の大声に耳がキーンってなってしまった。
コワモテイケメンも、耳に指を突っ込んで、眉をひそめている。
「間違いない、俺んちだよ」
「ええっ……! だって、さすがに自分の家の住所は分かるんじゃ……!?」
「……俺も最近ここに越して来たから、わりぃ、自分家の住所ってよく分かってなかったわ」
嘘はついてなさそうだ。
つまり、このコワモテイケメンの苗字は『大瀬戸』なのだろう。
「え? でも、瀬戸のおじさんは、これから一緒に住むのは『瀬戸』って名前だって言ってて……」
だからこそ、私は瀬戸のおじさんの家に行かないといけないって思っていたんだから……。
すると、コワモテイケメンの表情が一気に曇った。
「あんまり触れないでくれ……」
もうなんかどんよりしてて、それ以上は触れちゃダメって思った……。
「そういやあ、親父が家の手伝いをしてくれる奴を寄越すって言ってたな……まさか……親父のやつ……」
そうして、コワモテイケメンは急いでスマホを取り出して、ボタンをタップする。
トゥルルルルル――ピピッ。
どうやら、瀬戸のおじさん――もとい、大瀬戸のおじさんに繋がったみたいで、確認をはじめた。
「おい、どうなってやがる? 年の近い女とか有り得ねえだろう!!」
父親に向かって乱暴な口調である。
いらだっている彼を見ていたら、なんだか怖いし……。
それに……。
「はあ!? しかも住み込み……!? てめえはいつ帰ってくるんだよ!? マジで話にならねえ!!」
スマホに向かって叫んだコワモテイケメンはド迫力だった。
この人なんなんだろう、こんな豪邸に住んでてお坊ちゃんかと思いきや、喋り方雑だし……。
そうして、ピッと乱暴に受話器ボタンを押した彼は、私の方を睨むように見て来た。
「ひえっ……」
「お前の目的地はここで間違いねえ……」
少しだけ彼のスマホを持つ手が震えている気がした。
「ええっと……」
「お前、名前は加賀美百合だろう……?」
フルネームで名前を呼ばれて、心臓がドキンと跳ねた。
おずおずと返す。
「はい、そうです……」
「ああ、マジかよ……親父のやつ、本気で意味が分かんねえ……ふざけんなっての……」
コワモテイケメンが短い髪をガシガシかきはじめた。
乱雑な仕草が怖くて仕方がない。
「ええっと……あの、大瀬戸さん……いったいどうなっているんでしょうか……?」
私が彼の苗字を呼ぶと、ピクリと反応する。
「ああ……?」
すると、こっちをガンつけてくるではないか。
名前を読んだだけなのに怖すぎ……。
ビクビクしていると、相手が喋りはじめた。
「見たら分かるように、俺の家はいわゆる金持ちだ。使用人みたいな時代錯誤なやつらと一緒に住むのがあんまり好きじゃねえ。そうしたら、高校2年の進級祝いにって、親父が持ってたこの屋敷を俺の住まいにって譲ってくれたんだよ」
自分で金持ちって言う男の人、初めて見た。
いわゆる別荘というやつだろうか?
年はあんまり離れてないはずだけど……。
どうやら、この洋館はコワモテイケメンの所有物のようだ。
「だが、今まで家事なんてろくにしたことない。知らない間に親父が寄こしてたSP達に見られてたのか、コンビニかデリバリーばっかりになってるのがバレたんだよ。そうしたら、#加賀美百合っていう家事を手伝ってくれる女__・__#を寄こすって、親父から言われたんだよ……だから、てっきりもっと年取った奴が来るって思ってたんだが……」
大瀬戸のおじさんからの説明を聞いて勘違いしていたようだ。
私の方も、大瀬戸のおじさんの奥さんと小さな男の子のお家でお手伝いをするって考えてたぐらいだし……。
あれ? そう言えば、このコワモテイケメン、お母さんがいないって言っていたような……?
あれれ? それに、大瀬戸のおじさんは海外に住んでいて……?
あれれれ? だったら、これから私は……まさか……?
まさか……!!!???
「年の近い女が、一人暮らしの俺んちに住み込みになるとか……さすがに年頃の男女二人きりで同居とか、マジであり得ねえだろう……」
年頃の男女二人で同居!!??
や、やっぱり……!!!!????
そうなりましたか……!???
衝撃的な展開に、私はあんぐり開けた口を塞げなくなってしまったのだった。


