こわモテ男子と激あま婚!?



 コワモテイケメンが瀬戸さんのお家の近くまで案内してくれることになった。
 もう夕ご飯時だからか、人気はだいぶ少ない薄暗い道を歩く。
 荷物が重くてヨタヨタ歩いていると――。

「ああ、ほら、人にモノ預けるのが嫌じゃないんなら、俺に貸せよ」

 そう言って、彼がリュックを代わりに持ってくれることになった。
 見かけは怖いのに優しい……。

「このリュック、重てえな……夜逃げでもしてきたのかよ?」

「夜逃げじゃないですが、夜逃げみたいな感じかも?」

「はあ? なんだよ、意味が分からねえな……」

「ええっとですね……」

 あまり簡単に人を信用するのも良くないかもしれない。
 だけど、コワモテイケメンはなんとなくだが、悪い人ではなさそうだ。
 かいつまんで事情を話す。
 すると、コワモテイケメンは指先でクルクル回していたバスケットボールをストップさせた。
 真剣な表情でこちらを見て事情を聴いてくれた。
 けれども――。

「ふうん……」

 一言だけそう返されてしまう。
 ――ズキン。
 胸が痛い。
 やっぱり知らない人に話さない方が良かったかも……。
 そう思って少しだけ後悔していたんだけど……。

「お前のとこ#も__・__#母親がいないんだな」

「#も__・__#?」

「ああ」

 そうして――。

「俺んとこも母親がいねえ。父親も……。まあ、お前の家とはまた事情が違うがな……」

「そうなんですか?」

「ああ、俺達、わりと似た者同士かもな」

「似た者同士……」

 このイケメンも何かワケアリのようだ。
 お母さんが死んで、葬式の後から、大人たちとばかり話していた。
 それも事務的なことばっかり。
 入りたての高校にもなかなか顔を出せずにいて……。
 そんななか、年の近い高校生と久しぶりに話して……。
 しかも、彼も母親がいないという。

「……っ」

 目頭が熱くなって、勝手に涙が出て来た。
 止めようとするけれど、どんどんどんどん、まるで洪水みたいに溢れて止まらない。
 すると、コワモテイケメンが、ぎょっとした様子でこちらを見て来た。

「おい、どうした……!?」

「ず、ずびません……涙が……勝手に……」

 泣き止まなきゃ……。
 どうしよう、どうしよう。
 スカートのポケットからハンカチを取り出そうとしたのだけれど――。

「あ……」

 急に目の前が真っ白になる。
 鼻先が固い何かにぶつかってる。
 え、もしかして……コワモテイケメンの胸板で……。
 そう、私は、彼に抱き寄せられていたのだった。
 しかも――。

「ほら、泣きたいなら泣けよ……周りからは見えないようにしてやるから」

 そう言って、私の頭を撫でて来たのだ。

「う、うえっ……」

 もうそこで一気に涙腺は崩壊。
 生まれたての赤ん坊かっていう位、私はオンオン泣いてしまった。
 泣いている私を黙って彼は抱きしめてくれて……。
 なんだか胸が温かくなっていく。
 次第に涙が止まって、私はそっと彼の胸板から離れた。
 そうしたら、コワモテイケメンがズボンのポケットをゴソゴソしはじめる。
 
「ほら……これ」

 そうして、手渡してきたのは――。

 ぐちゃぐちゃのハンカチ。
 
 だけど、その気持ちが嬉しくって……。

「ありがとうございます」

 思わず私は笑顔になった。
 すると、なぜか相手がそっぽを向く。

「ああ、まあ、気にするなよ――悪いな、ぐちゃぐちゃのハンカチしかなくて」

「いいえ、嬉しいです。あ、そうだ! 案内ありがとうございます! たぶんこの近くです。ハンカチ、今度洗って返しますから!」

「ああ、まあ、別に洗ってくれるんなら、助かる……ちょうど俺ん家の近くで良かったな」

「はい、本当に奇遇でしたね」

「そうだ、俺、そこのコンビニで飲み物買いに行こうと思っているが……お前をちゃんと案内しようか?」

「いいえ、何から何まで頼りすぎるわけにはいきません! ありがとうございました……! すごく助かりました、ここまでで大丈夫です」

「え? ああ」

 少しだけ残念そうにこちらを見ている気がしたけれど……。
 これ以上甘えても良くない。

「まあ、同じ学校な上に近所のよしみだ。何か困ったことがあれば言ってくれて構わない。じゃあな」

 近所のコンビニに向かって歩く彼の背中を見送った。
 途中、彼が前を向いたまま、手をひらひら振ってくる。
 なんだか、ドキドキして胸がじんわり熱くなるのは、なんなんだろう。

「あ! そういえば、あの人の名前聞き忘れた!」

 そんなことを思いながら、私は瀬戸さんの家へと急いだのだった。