午前中にあった試合が終了して、昼は皆で打ち上げにいって、わいわい騒いだ。
陽が傾きはじめたぐらいに、瀬戸先輩と私は、一緒にお家に帰っていた。
そうして、通りかかったのは、初めて――。
ううん、2人が再開した思い出のバスケットコート。
バスケットゴールの下に私たちは辿り着く。
「なあ、加賀美百合、お前に話が――」
「?戸先輩の話したいことって?」
私たちの言葉が重なった。
一度だけ大きな風が吹いて、2人とも静かになる。
向き合う格好になると、瀬戸先輩が真剣な表情になった。
優しい風が瀬戸先輩の短くて黒い髪をさやさやと揺らす。
彼の長くて黒い睫毛が震えた。
そうして、薄い唇をゆっくりと開く。
「……お前と出会えたおかげで、本当に大事なものを取り戻せた。ありがとう」
「いいえ、取り戻せたのは、瀬戸先輩自身の力です」
「お前なら、そう言うと思ったよ……」
そうして、彼が続ける。
いつになく真剣な表情でこちらを見てくるものだから……。
心臓がドキドキして落ち着かない。
「親が言った婚約者だからじゃない……この間も言ったが、俺にとって、お前は特別な存在なんだ――」
――特別。
その言葉が胸をもっと高鳴らせていく。
「そうして、お前にとっての特別も、俺であってほしいと思ってる……」
「瀬戸先輩……」
「なあ、加賀美百合、お前にとって俺はどんな存在なんだ……?」
試合の時みたいに真面目な顔の瀬戸先輩。
適当にはぐらかしたらダメだ。
私は自分の胸の中に問いかける。
「私にとっての瀬戸先輩は……」
瞼を閉じる。
小学生の時から推しのセト君。
高校生になった瀬戸先輩。
2人とも同じ人で……。
……ずっとずっと追いかけてきた、私の推し。
だけど――それ以上に……。
そうして、ゆっくり瞼を持ち上げて、瀬戸先輩の瞳をまっすぐに見つめた。
「瀬戸先輩は……私の特別な推しです」
これで答えになっただろうか?
すると、少しだけコワもてに戻った瀬戸先輩が、そわそわしながら尋ねてくる。
「特別な推しって言うのは、その……バスケを応援したいだけの、そういう推しなのか……?」
「え?」
「その……俺は四六時中一緒にいたいというか……一生手放したくない……そういう意味の特別なんだが……」
戸惑う彼を見ていたら、なんだか面白くなってくる。
「私の特別な推しは――一生ずっと一緒にいたい、そんな推しっていう意味です」
そう伝えると、瀬戸先輩が少年みたいな笑顔になった。
試合に勝った時みたいに嬉しそうで、胸がキュンと疼く。
「なあ、また俺はバスケをはじめたわけだが……」
「はい」
「お前が勧めて来たんだから、責任もって、最後まで応援してくれよ」
「分かりました……そうだ、好きなものは好きでいて良いって教えてくれたのは、瀬戸先輩です。だから、私はずっと先輩のことを推し続けます」
初めて出会った公園のバスケットコート。
ボールを抱えた彼が私の方に一歩歩み寄ってくる。
「そうか、ありがとうな……」
ふっと私の上に影が差す。彼の端正な顔立ちがゆっくりとこちらに近付いてくる。
「瀬戸先輩……」
彼の長い睫毛が私の睫毛にそっと重なった。
唇に柔らかなものが触れる。
優しい風がそよそよとそよいだ。
そうして、彼の唇がゆっくりと離れた。
「ずっとお前が推し続けたくなるような男に俺はなるから……だから、これから先もずっと、俺のことを推し続けてくれよ――好きだ、ずっとそばで見ててくれ、百合」
「はい……」
太陽の光がキラキラと輝く。
まるで――私たちの幸せな未来を祝福してくれているようだった。


