こわモテ男子と激あま婚!?



 チャラチャラした集団から逃げて走り出したコワモテイケメン。
 公園から、かなりの距離……1kmぐらいはあるんじゃないかな?
 それぐらい離れた雑踏で、彼はようやくスピードを緩めて歩きはじめた。
 
「あいつら、もう追いかけてこないな……そういやあ、学ラン置いてきたか……まあ良い」

 大きなリュックを背負った私ごとお姫様抱っこして走ったのに……。
 彼ったら、全然疲れてないみたい。
 汗一つかいてないとか、どれだけ体力お化けなの……?
 それよりも気になるのは……。

「あ、あの……!」

「ん? なんだ? ああ、お前を抱えてたんだったな」

 私を抱っこしてたことなんて、すっかり忘れた調子だ。

「その……おろしてもらえないですか?」

「ああ、悪かった」

 そう言うと、彼が私の身体を地面に降ろしてくれた。
 パッと離れる。
 密着してたせいで身体が熱かったからかな?
 さっきよりも何だか風が冷たいなって思った。

「その……差し出がましいかもしれませんが……どうして、あの怖そうな集団に追われていたんですか?」

「え? ああ、まあ事情があってな」

 ふっとコワモテイケメンが視線を外した。
 ワケアリ……?
 もしかしたら、この人は闇の世界の住人かもしれない。
 これ以上、深入りしてはいけない気がする……。

「ええっと、それじゃあ、私はこれで……」

 そっとその場を離れようとしたのだけれど……。
  
「ああ、そういえば、お前、同じ学校の女だな……」

「え? はい、そうです」

「バッジの色が赤ってことは、1年生だな」

 そういうコワモテイケメンの白シャツの襟には青い刺繍がしてあった。
 ということは、1学年上の2年生だ。
 刺繍はローマ字の筆記体で書かれているので見えづらいが……。
 ……SE――。

 解読しようとしていたら……。

「お前、俺がバスケしてたこと、他のやつらに言うんじゃねえぞ」

 コワモテイケメンが低い声で告げてくるので、心の中で「ひっ」と叫んでしまう。
 正直ちょっと怖い……。

「も、もちろん、です……」
 
 人の秘密を誰かに色々言ったりはしない。
 そもそもコワモテイケメンはバスケの練習を真面目にやっていただけだ。
 それを誰かに言われて困るものなのか……。
 もしかしたら、何か裏の事情でもあるのかもしれない。

(ひええ、絶対にこの人、不良だよ……それよりも、早く雇い主さんのところに行かなきゃ……!)

 そう思ったんだけど……。

「……ちっ……」

 唐突に相手が舌打ちをして眉をひそめた。
 だけど、気のせいか、すぐに表情は今まで通りに戻る。
 さっさと立ち去ろうとしたのだけれど……。

「あ、あの……」

「なんだよ?」

 思い違いで、色々相手の事情に踏み込み過ぎるのもよくないだろう。

「ええっと、それでは――あ、その前に!」

「ん? どうした?」

「そうだ、あの……ここに行きたいんですけど、方角、こっちであってますか?」

「ん? この紙に書いてある場所、俺ん家の近くだな」

「良かった……! ちょうど連れてきてもらえて助かりました。ありがとうございます。それじゃあ」

 そうして、リュックを背負い直して、立ち去ろうとしていたんだけど……。

「おい、待て!」

 ネコよろしく、ぐいっと制服の襟を掴まれてしまい、ぐえっとなった。

「きゃうっ……!」

「あ、わりい」

「にゃ、にゃんでしょう……?」

 前言撤回。
 やっぱり怖い人なのかもしれない。

「そっちは全然違う方向だ」

「え……」

 さっそく道に迷おうとしていたところを助けてくれたみたいだ。

「え? あ、そうなんですね……ありがとうございます!」

 私はにっこりと相手に微笑んだ。
 すると――。

「いいや、別に……」

 すると、ふいっと相手が明後日の方を向いた。
 心なしか、彼の顔が赤い気がするが……。

(気のせい……?)

「俺の方こそ、おかしなことに巻き込んで悪かったな……」

 さっきは怖い人だなって思ったけど、想像よりも悪い人ではないのかもしれない。
 口が悪いせいで、さっきまでコワモテに見えていたけれど……。
 やっぱりよく見たら、芸能人並みの綺麗な顔立ちのイケメンだ。

「いいえ、なかなかない経験だったので……! あ、あと、そうだ」

「どうした?」

「あの、差し出がましいかもしれませんが……腕のケガ、完治する前に動き回るのは、あんまり身体にはよくないかもしれません」

「……っ……」

「それじゃあ」

 そうして――今度こそ立ち去ろうとしたのだけれど――。

「待て」

「ぐええっ……!」

 再び私はコワモテイケメンに首根っこを掴まれてしまった。

「ったく……お前、なんかトロそうな女だな……」

 ……トロそう。
 確かによく言われるけれど……。
 指先でボールをクルクル器用に回しながら……。
 彼が今日一番の爽やかな笑みを浮かべて告げてくる。

「どうも行く先は同じみたいだし、ほら、案内してやるから……俺に黙ってついてこいよ……」

「ええっと……」

「お前巻き込んだ詫びだよ――ほら、来いって」

 ……なんだか強引だけど、悪い人じゃなさそうだし……。

「じゃあ、お願いします……!」

 こうして――私はコワモテイケメンについていくことにしたのだった。

 そして――。

 目的地に辿りついた後、私と彼の衝撃的な間柄が明かされるのだった。