しばらく膠着状態が続いた。
相変わらず親父は手強かった。
動きは機敏で無駄がなくて……。
本当にもう40過ぎてんのかよ……。
全然相手に隙が出来ねえ。
そんなことを思っていたら……!!
「瀬戸先輩!! 頑張って!!」
頭の中に加賀美百合の声が響いてきた。
これまでの自分なら怖じ気づいていたかもしれない。
彼女と出会うまでは、バスケの話を親父の前で持ち出すのさえ怖かった。
だけど――今の俺は違う。
心の中の彼女がずっと俺を推してくれているから――。
今ここで――過去の自分を乗り越えるためにも、どうしても親父に勝ちたかった。
親父がドリブルで加速した。
すかさずダッシュで相手のドライブコースに入った。
ポインティングを狙う。
「もらった……!」
親父の手から離れたボールにすかさず触れて、今度は俺がドライブ。
だけど、すぐさまボディアップで俺の動きを止めようとしてくる。
だが――俺も昔とは違う。
後ろに下がると、クロスドライブで相手を抜いた。
そのままゴール下に向かう。
それでも親父は俺に追いついてきた――!
ゴールさせまいとしてくる。
俺は大きく左右にステップした後、シュートを決めた。
だが――。
ガコンッ……!
リングにぶつかってボールが跳ねる。
いつもなら絶対に外さないのに……!
親父にとられる……!?
いいや、もう俺は諦めないって決めたんだ……!
だから――。
最高到達点でリバウンドしたボールを取ると、着地する――!
そうして、その反動で高くジャンプしてシュートを決めた。
――シュパンッ。
「良し……!」
遠くでハジメが騒いでいるのが聞こえる。
段々と全身が熱を帯びてきて、実感がわいてきた。
――勝った!!
今まで勝ったことのなかった親父に、俺は勝利を収めることができたんだ……!!
こんなに動いたのは久しぶりだなってぐらい、汗が流れていく。
「強くなったな、瀬戸」
俺と違って涼しげな親父が、こちらに向かって歩いてきた。
とはいえ、よく見たら額に汗を浮かべている。
「親父……」
実の父親じゃないって分かった時以来、怖くて相手の目を見ることが出来なかったけれど……。
今日の1on1を経て、ようやく久しぶりに、親父のことを直視することが出来たんだ。
「昔は駆け引きが苦手だったのに、うまくなったな……」
「俺もだいぶ大人になったからな」
「そうだな」
親父が唇をふっと緩めた。
しばらくの間、そよそよろ風がそよいだ。
「瀬戸」
日差しが強くなって、親父の表情は見えなかった。
だけど、後悔の滲む声が俺の胸を刺してくる。
「お前があの日、私の電話の内容を聞いているのに気づけなかった」
「……っ……!」
「最初は、見せかけだけでも幸せな家族を演出するために、お前にバスケを教えていた……」
その言葉を聞いて、胸がズキンと痛んだ。
「いや……仕方ないさ……だって、親父と俺との間には血が……」
親父が首を横に振った。
「血の繋がらないお前が、俺が好きだったバスケのことを好きになっていって……皮肉なことに、自分自身が本当に欲しかったものが何か分かったんだ……そうして、無邪気に慕ってくるお前が、俺の過去を知ってしまって……もう自分のことを父親として見てもらえなくなるんじゃないかと思ったら……怖くなったよ……」
その言葉に俺は目を見開いてしまった。
「……金さえあれば、家族を救える、自分を認めてもらえる、人並みの幸せだって手にいれることが出来る。そう思って、私は――俺は、本当に大事なものを見失ってしまっていたんだ。いくつになっても、大人になりきれない、四十過ぎても、まだ……」
「親父は……」
「瀬戸。言葉の使い方を間違って、そのことで、お前が傷ついてるなんて気づけてやれなかった……もうお前は許してはくれないかもしれないが……」
そう言うと、親父は俺のことを改めてまっすぐ見てきた。
「……お前と一緒にバスケをしてきた時間は、俺にとってかけがえのない時間だった。血なんて関係ない。俺はお前の父親になれて、幸せだったよ」
「親父……」
その言葉を聞いた瞬間、世界が明るい光に満ちているような――。
そんな感覚が俺の身体の中を拡がっていった。
そうして――。
「なあ、瀬戸、お前は私のようにはなるな……自分の本当に大事なものを見失うな……」
そう言うと、親父はその場を立ち去ろうとする。
……本当に大事なもの。
それは……。
真っ先に浮かんでくるのは――。
バスケをやってきた仲間達と――。
『推しが生きてくれているだけで幸せなんです』
――どんな俺でも推し続けてくれていた――。
その時――。


