その声を聞いた俺は少しだけ震える。
転がっていたボールを拾い、ゆっくりと歩いてきたスーツの男は……。
「親父……」
――海外に行っていたはずの親父だった。
ふと――。
『瀬戸先輩……!』
性別が違うはずなのに、親父の姿と加賀美百合の姿が重なる。
「なんで、あんたがここに……」
意図せず声が震える。
親父がふっと微笑んだ。
「百合さんから、またお前がバスケのチームに戻るかもしれないと聞いてな」
思わず俺は舌打ちしてしまった。
「あいつ、余計なことしやがって……」
その時――ボールがビュンと俺に飛んできた。
パシンッ。
手の中にボールが収まった。
親父が昔、よくパスの練習をしてくれたのを思い出す。
そうして、相手は思いがけないことを言い出した。
「久しぶりだ――私と1on1といこうじゃないか」
そういうと、親父はスーツを脱いで白シャツになった。
ネクタイを緩める動作が優雅だ。
「だって、親父は……」
頭の中に――昔、たまたま聞いた台詞が頭を過ぎる。
『皮肉だな……』
きゅっと唇を引き結ぶ。
「やはり、お前は許してはくれないようだな……すまなかった……」
昔よりも小さく見える背中――。
ずっとずっと追いかけてきた相手の背に、俺は声をかける。
「待ってくれ! 俺はあんたを超えないといけない……だから……!」
そうして、久しぶりの1on1が始まったのだった。


