瀬戸先輩が昔の話をしてくれて数日が経った。
私が先輩の仲間達から頼まれていた伝言。
それは――。
『瀬戸、俺たちはまだ終わってない。お前が戻ってきてさえくれれば――それで良いから』
そのことを伝えたら……。
瀬戸先輩はすっごく感動してた。
だけど、まだやっぱり皆の輪の中に入るのは緊張するんだって。
試合も一緒にするのは、ためらいがあるらしい。
「加賀美百合、お前が一緒なら大丈夫だ……」
そんな風に言うから……。
先輩のそばには私がいつも一緒にいることになった。
また先輩がバスケの仲間と会話してもらえるようになって嬉しい……。
あと、気がかりなのは……大瀬戸のおじさんのこと。
私を家政婦さんとして雇ったぐらいだから、おじさんは瀬戸先輩のことを心配してくれてるんだと思う。
だけど、まだ瀬戸先輩はおじさんに自分から色々言うのは怖いみたい。
でも、無理はしなくて良いんだと思う。
瀬戸先輩には瀬戸先輩のペースで頑張ってもらえたら、それが一番だと思うから。
……家政婦と雇い主の息子さん以上の関係な気がする私たち。
推しの近くで過ごせるのって本当に幸せで……。
正直それ以上は何も望まないぐらいだったんだけど……。
ちょうど、夏になる少し前……。
私たちは些細なことで口喧嘩になってしまったんだ。
「山城のやつが、お前にバスケ部のマネージャーになれだって……?」
「はい、そうなんです」
最近は優しい瀬戸先輩だったのに、こんなに怒ってるの初めて見た……。
ちなみに山城っていうのは、学校で私に声をかけてきた王子系イケメンな、先輩のバスケ仲間のことだ。
「お前がマネージャーとか、マジで有り得ねえ……お前は俺専属の家政婦だってのに……あいつは何を考えてんだよ……」
そんな風に言われて、なんだか色んな気持ちがないまぜになってしまった。
特別だって前に言われたけど……。
結局、瀬戸先輩にとっては、特別な家政婦さんてことなんだなって。
なんだか、胸がズキンってなったんだ。
「分かりました……もう良いです……瀬戸先輩からしたら、私はただの家政婦さんだし」
我ながら子どもっぽいなとは思ったけれど……ぷいっとして、彼のそばを離れる。
「おい、待て、加賀美百合……なんでお前はそんなに機嫌が悪くなったんだよ……」
「いいえ、気になさらないでください……朝ご飯はちゃんと準備してありますから……マネージャーの件はともかくとして、一応山城先輩に今日の試合を見学に来てくれって」
「なんで俺じゃなくてお前が誘われてるんだよ……」
「山城さん、瀬戸先輩のことも誘ってましたよ。たぶん聞きそびれてたんだと思いますけど……ではでは」
そうしたところ――。
「加賀美百合! メガネを忘れてるぞ!」
「いただいたお給料で、コンタクトに変えたんです」
ちょっとでも瀬戸先輩に可愛いって思われたいから……。
なのに……。
「お前はメガネじゃないとダメだ!」
「メガネにするかコンタクトにするか、自分で決めます。それじゃあ」
そうして、私は一人で、とあるバスケの試合に行くことにしたんだ。


