こわモテ男子と激あま婚!?



「大瀬戸家は古風な家系でな……江戸時代頃から商売気質で儲けてきていて、明治になったら成り上がりだが貴族の称号を手に入れたりもしてきた。初代が『瀬戸』っていう名前だから、それに『大』をつけて『大瀬戸』っていう名字になったっていう逸話があるような家だった」

 瀬戸先輩が続けた。

「あとは、風変わりだが、数代おきに験を担ぐとかで、跡継ぎに初代の『瀬戸』っていう名前をつけられることがあった。その数代おきに当たってしまったのが、この俺だ」

「だから、瀬戸なんですね」

「ああ」

 なぜ名前と名字がかぶっているのか気になったが、理由を聞いてなるほどと思った。

「平成になっても政略結婚をするような、そんな堅苦しい家だった。そうして、大瀬戸家の1人娘だった俺の母親と養子で迎えられた優秀な父親。そんな両親の政略結婚で生まれたのが、この俺だって言われてきた。そう――表向きはな……」

「表向き、ですか……?」

「ああ、表向きだ」

 そう言われて、私はピリッと引き締まる気持ちになった。
 ここから先は、なんだかとてつもなく重大な話になりそうだったからだ。

「ええっと、瀬戸先輩のお母様は、そういえば……?」

「母親は子どもの頃からいなかった」

「お父様は、私のお母さんの見舞いに来てくれてた、『大瀬戸のおじさん』ってことですよね……?」

 すると、先輩はだんまりになった。
 しばらくすると、またポツポツと呟きはじめる。

「そうだな……お前のいう『大瀬戸のおじさん』が俺の親父だ……」
 
 少々引っかかる言い回しだと思った。

「親父は昔っから、頭がキレて、体力も馬鹿みたいにあって、それで俺の母親の婚約者に選ばれたんだ」

「そうなんですね」

 気の優しいおじさんのイメージがあるけれど、若い頃は瀬戸先輩みたいなイケメンだったに違いない。

「親父は学生時代はバスケットボールのプレイヤーとしても優秀だったみたいで……小さい頃、たまたま親父がバスケをしている姿を見て、俺もバスケをはじめたんだ……時々バスケを一緒にしてくれたりして……母親不在だったが、俺としては父子で楽しく過ごせてこれたよ」

 そういう瀬戸先輩は過去を懐かしむように告げてきた。
 きっと、本当に幸せだったんだと思う。
 
「親父もきっと俺にすごい選手になってもらいたい。そう思ってるんだって、めちゃめちゃ楽しくバスケを続けてきた。忙しい中でも、たまに試合見に来てくれたりしてさ……だけど……そう思っていたのは俺だけだったんだ」

「え?」

 だって、その話だけ聞いたら、とっても楽しそうにしている、シングルファザーと息子さんの話って感じがしたのに……。

「でも、あるとき――中学時代になるか――俺は聞いてしまったんだよ」

「何を……ですか?」

 すると、また少しだけ黙った先輩がポツポツと続ける。

「親父が『皮肉なことだな……血の繋がっていない瀬戸が、私と一緒でバスケが好きだなんて』……てな」

「え――?」

 血が繋がっていない……?

「だって、大瀬戸のおじさんが、瀬戸先輩のお父さんなんですよね?」

「戸籍上は、な……」

「戸籍上……?」

「ああ……そうだ。俺は――」

 言いよどむ瀬戸先輩はとっても苦しそうだった。

「言いたくなかったら、無理はしなくて……良くて……」

 だが、瀬戸先輩は首を横に振ると、話を続けてくれた。

「最初は意味が分からなくて、調べたよ。母親の両親――大瀬戸のじいさんとばあさんに話を聞いたんだ。そうしたら、観念したように話してくれた……政略結婚を嫌がっていた母さんが、好きだった相手との間に出来たのが俺だってことをな……」

「そんなことが……」

「ああ。そうして、母親は俺を産んで祖父母に預けた後、好きな男を追いかけてどこかに行っちまったそうだ……」

 なんと答えて良いのか分からなかった。

「でも、可哀想なのは俺じゃない。親父の方だった」

「大瀬戸のおじさんが……?」

「ああ。親父は、別に俺の母親を愛していたわけじゃなかった。学生時代から付き合っているバスケ部のマネージャーがいたらしいんだ。だけど、俺のひいじいさんが借金か何かを突きつけて、無理矢理、俺の母親の婿にしたんだそうだ……結局、愛する女は失って、嫁になった女には逃げられて、血の繋がらない子どもを育てていたんだ……そりゃあ、皮肉だって言いたくもなるよな……」

 瀬戸先輩は、大瀬戸のおじさんのことをすごく慕っていたんだと思う。
 寂しそうな横顔を見ていたら、胸がぎゅっと苦しくなった。
 
「瀬戸先輩……」

「話が長くて悪いな……」

「いいえ……大丈夫ですか……?」

「ああ、お前の方こそ、こんな激重な話聞かされて大丈夫か?」

「大丈夫です……」

「そしたら、続きを話すな」

「はい」

 瀬戸先輩は唇を引き結ぶと――バスケを辞めた理由を話しはじめたのだった。