……初の登校日のことだ。
カバンを持ってやると言われて瀬戸先輩にカバンを預けていた私は、預けていることを忘れて1年生のクラスに向かってしまったのだ。
どうしようと思っていたら……。
『加賀美百合、学生カバン、俺に預けたまま、忘れてるぞ』
瀬戸先輩が届けてくれて、安心したのだけれど……。
今にして思えば、それが運の尽きだったのだ。
クラスの女子達から悲鳴が上がった。
あれ? もしかして、瀬戸先輩って有名人……?
まあ、確かにイケメンだもんね……。
黙ってたら、綺麗な芸能人顔だもん……。
そんな中……。
――今まで特定の女子の相手をしてこなかった瀬戸と親しい女がいるらしい。
そんな噂は、どんどん広まっていき……。
そうして、毎日のごとく、1年生から3年生まで、スクールカースト上位女子達から呼び出されることになってしまったのだ……。
「ねえ、聞いているの? かがみもちさん!」
現実に引き戻される。
かがみもち……。
私の事だろうか。
もっとユーモアの効いたディスりかたは……なかったんですかね……?
「ちょっと、聞いてるの!?」
「ひえっ……!」
女子の先輩が、コワモテな瀬戸先輩の数倍怖い顔で、私にぶち切れてきてる……。
ああ、私の平穏な理想の毎日、戻ってきて……。
そんなことを願ってると……。
「おい、加賀美百合! また今日も校舎裏かよ」
――女子達の背後から、瀬戸先輩が現われた。
きゃあきゃあ騒ぐ彼女達を尻目に、彼は私に近付いてくる。
「お前、とろすぎ……最近、俺の同学年の女子達とエンカウトしすぎだろ……」
エンカウント率が高いのは貴方のせいですよ……とは、さすがにこの場では言えない。
「俺から離れるなって言ってるだろ?」
そうして――。
「あ……」
彼の大きな手が、私の手を掴んできた。
女子達の悲鳴が上がる。
「ほら、帰るぞ――」
そうして、彼と手を繋いだまま、その場から離れようとしていたら――。
「待って! 大瀬戸君!」
ガン黒ギャルのリーダーと思しき女子が、瀬戸先輩に声をかけた。
「何だよ……?」
「その地味メガネ、大瀬戸君の何なの? 親戚じゃないんでしょう?」
「ああ、そうだけど……」
そうそう、私は瀬戸先輩のお家に雇われている家政婦さんなのだ。
真実を告げたら、瀬戸先輩親衛隊の皆さんも落ち着くかな?
そう思っていたら……。
「お前達と違う。こいつは俺の……」
「俺の……?」
なかなか溜めがある。
早く言えと言わんばかりに、女子達はそわそわしていた。
早く真実を答えて、私に平穏な毎日を返して、瀬戸先輩……!
「俺の……」
ふと、瀬戸先輩の顔を見上げる。
私はぎょっとしてしまった。
ちょっと待って、先輩……!
「……特別だ……」
めちゃめちゃ顔を真っ赤にして、何を言い出したんですか、先輩……!?
そんな顔してたら、よからぬ関係だと勘違いされますけど……?
「そんな……!」
ほら、女生徒達も、皆勘違いしてしまって……!
「これで良いか? ほら、加賀美百合、帰るぞ」
「は、はい……! ええっと……」
「弁当うまかった。今日はハンバーグ作ってくれよ……お前のハンバーグは世界一うまいからな」
我々のやりとりを聞いて、女子の一人が倒れたではないか……。
そうして――。
女子達の羨望の眼差しを受ける中、私は彼のお家に帰ることになったのだ。
瀬戸先輩の特別……。
どういう意味なんだろうって、気になりつつも、聞けないまま……。
だけど……今、なんだかすっごく幸せで……。
こんなに幸せで良いのかな?
「どうした、加賀美百合?」
「いいえ……」
「相変わらず、お前って面白いよな……」
そうして笑いかけてくる瀬戸先輩に、胸がきゅうって疼く。
先輩のこと、もっと知りたい……。
そんな風に思っていたら……。
ついに先輩の過去に触れることになったのだった。


