こわモテ男子と激あま婚!?



 品の良いテーブルと椅子が置かれたダイニング。
 瀬戸先輩の前に向かうと――。
 
「はい。お金持ちの先輩から見たら庶民的な味かもしれませんが、どうぞ」

 ――真っ白でつやつやの炊きたてご飯の隣に、高級な漆塗りの茶碗に入った味噌汁を並べた。
 
 ふんわりと親しみのあるコメと、濃密でコクのある味噌の香りが漂う。

「和食……」

 瀬戸先輩がまじまじと並べた食事を見た後、彼のそばで立ったままの私のことを見上げてきた。

「まだ若いのに古風だな」

 う……。
 ……褒められているのかな?
 それともちょっとけなされている……?

 すっと瀬戸先輩が箸を持った。
 喋り方は乱暴だけど、箸の持ち方がすごく綺麗で……。
 すっと背筋を伸ばしたまま、ご飯を口に入れる姿を見ていたら……。
 この人は本当に御曹司なんだなって実感した。

「いつも朝はパンだったから、あんまり食ったことないが……」

 ひょいっとご飯粒を口にいれると、もぐもぐ食べて、ごっくんと飲み込んだ。

 そうして、開口一番。

「うまいな……!」

 感嘆の声が聞えて、私の心がぱあっと明るくなっていく。

 わあ……!

 お世辞じゃなくって本当に美味しいって思ってくれてるみたい。

 すっごく嬉しい。

 とっても純粋でキラキラした瞳で瀬戸先輩がこっちを見てくるから……。

 今度は心臓がドキドキして落ち着かなくなっていく。

 ごくごくと味噌汁を啜る姿も様になっていて、さすがイケメン。

 そうこうしてたら――先輩は全部食べちゃった。

「加賀美百合! お前、飯作るの上手いんだな!」

「え? 誰かに食べてもらったりしたことないので……そう言ってもらえると嬉しいです――きゃッ……!」

 そうして、次の言葉にまたもや私は衝撃を受けることになる。


「お前、これ毎日作れよ……! 一生飽きない味だ……!」


「い、いいい――一生……!???」


 困惑していると、彼もはっとなって顔を真っ赤にしていた。

「一生って、いや、別に! お前を嫁にもらいたいとか、そんな話じゃなくってだな! ほら、お前、一応俺の家に雇われてるわけだから……!」

「そそそ、そうですよね……! わ、私は、瀬戸先輩の身の回りのお世話をする係で……!」

 なんとか心を落ち着かせようとする。
 冷静にならないと……。
 もし好きになったとしても、絶対に釣り合わないようなお金持ちの御曹司。
 それが瀬戸先輩なんだから……。

 そう自分に言い聞かせて、気持ちを落ちつけていると――。


「その……」


 瀬戸先輩が神妙な面持ちで、こっちを見てきていた。

「昨日は悪かった……」

「え? 何の話ですか……?」

 予想外の展開に思わず、キョトンとしてしまった。
 瀬戸先輩は伏し目がちになりながら、声を絞り出すようにして告げてくる。


「お前に対して、ひどい事を言った……」

「ひどい事……?」

「ああ」

 もしかして……?

『だが、そいつと何年も会えてないんだろう? ……そんなのお前、もう大人になって忘れてるさ……それに、俺はバスケは嫌いだって言っただろう?』

 たぶんそれぐらいしか思い当たらなかった。

 私は首を横に振る。

「そんなに気になさらないでください……!」

「お前が気にするなって言ってもな、俺が気になるっての……」

 瀬戸先輩は俯いたかと思うと、頭をガシガシかきはじめた。

「先輩、意外と繊細なんですね」

「意外とってなんだよ……? ああ、まあ、なんか詫びに欲しいものでもやろうか?」

「いいえ。見たところ、瀬戸先輩はアルバイトはしていません」

「そうだけど……」

「おじさんの稼いだお金で侘びられても嬉しくないです」

「…………」

 瀬戸先輩がだんまりになってしまった。
 失礼なこと言ったかな……?

「ええっと……もしプレゼントしてくださるのなら、先輩がお金を稼ぐようになってからお願いします」

 そこまで言って、私ははっとなった。
 彼女でも何でもない、それこそ只の雇われた家政婦さんなのに、なんて生意気なことを言ってしまったんだろう……!
 しかし、一度放った言葉は取り消せないのだ。

「あ! 先輩、今のはなしです! ごめんなさい!」

 すると――。

「分かったよ。俺がちゃんと自分で働き出したら、お前が欲しいものを真っ先に買ってやるから」

「ふええっ……!?」

 唐突にそんなことを言われたので、私はビックリして声を上げてしまった。

「何をお前は驚いてるんだよ……」

「い、いえ……その……」

 私はモジモジしてしまう。

「さすがに先輩が働いている頃には、私はもうこのお家にはいないかなって……」

「あ……」

 自分で何を言ったのか理解したのか、瀬戸先輩の顔も真っ赤になっていく。

「いや、別に、お前とずっと一緒に暮らすの前提で話をしてたわけじゃなくってだな……!」

「そ、そうですよね! 瀬戸先輩、なんだかうっかり者だし、今のも言い間違えですよね!」

「うっかり者ってなんだよ……!」

「だ、だって、さっき謝ってくれた内容もうっかりだったし……」

 二人で言い合っていたら――。
 先輩がクツクツ笑いはじめた。

「お前、本当に見た目と違って面白いヤツだよな……俺にそこまで言ってくる女は、生まれて初めてだよ……」

「ええっ……そうなんですか……??」

 ふっと瀬戸先輩が真面目な表情に戻る。

「本当に悪かった……これからは、ああいうひどいことは言わないように気をつけるよ」

「いいえ……私の方こそ、うっかり発言が多いし、先輩に対して失礼な態度ばっかりとってごめんなさい」

「じゃあ、お互い様だな。これからは気をつけようぜ――まあ……」

 まあ……?

「俺はお前にズバズバ言われるの、嫌いじゃねえけどな……」

 なぜか瀬戸先輩は頬を赤らめて俯いているではないか――。

「え……!??」

 ――まさか……。

 まさか……。

 先輩って……。


 ……やっぱり、変わってる……?

 そんなことを思っていたら――。

「ああ、そろそろ時間だな」

「時間?」

「ああ、公園でガキに頼まれごとしてたんだよ――歯磨きしたら外に出るかな……」

 そう言って、瀬戸先輩が立ち上がる。

「頼まれごと?」

「そうだ。ああ、加賀美百合――」

「どうしましたか?」

「せっかくだ。この周りの道案内がてら、お前もついてこいよ」

 そうして、瀬戸先輩についていくことにしたんだけど――。

 ――先輩の思いがけない一面に触れることが出来るのだった。