閉じ込められた部屋の中。
加賀美百合が「推しと会えなくなるってことですか?」とオロオロしはじめた。
「それは確かに心配です……!」
いやいやいやいや。
誰もそんな答え求めてないって……。
そこは「男の人と二人で閉じ込められて緊張します」とかなんとか言えよ。
女子達にはわりとキャアキャア言われてきた自信があるだけに、俺としてはプライドが傷ついた。
しかも、ああ、くそっ……。
なんで俺だけ、こんなに緊張してるんだよ……。
「もう何年も会えてないけど、会えないとか嫌すぎる……」
加賀美百合はと言えば、本気で推しに会えなくなるのを心配しているみたいだ。
そんな様子を見ていたら、無性にムカムカしてしまう。
「お前の言う、推しとかいうのはどんなヤツなんだよ? 二次元?」
聞くと、ぱあっと彼女の表情が明るくなった。
「二次元じゃないんですよ! ちゃんとした人間の男の人です!」
「じゃあ、アイドルか何かなんだろう?」
「違います! ちゃんと現実に存在している男性です!」
こんなにニコニコ笑うんだなって、ちょっと意外に思った。
それと、ムカムカがどんどんひどくなっていく。
「どんなヤツなんだよ、そいつは?」
すると、加賀美百合が嬉しそうに告げてきた。
「すごく一生懸命な人で、好きなものを好きでいられる人、です!」
それは……。
ズキン。
何か胸の奥深くを抉られたような気がした。
思わず、鼻を鳴らしてしまう。
「……俺とは全然違う男だな」
ふっと微笑んだが、今度は加賀美百合からの反応が乏しかった。
せっかくだから、意地の悪いことを言ってやりたくなってきた。
「だが、そいつと何年も会えてないんだろう? ……そんなのお前、もう大人になって忘れてるさ……それに、俺はバスケは嫌いだって言っただろう? ああ、じゃあ、俺は今度こそ寝るから邪魔するなよ」
普段なら誰かを傷つけるような言葉を投げかけるわけじゃない。
正直あんまり人に深入りしたくないからな……。
だけど、なんでだろう。
まだ会って二日しか経ってないはずなのに、こいつに相手にされてないのが嫌だって思ったんだ。
「……瀬戸先輩」
加賀美百合が俺の名前を呼んできた。
ふと、彼女の顔を見ると――。
「そう、ですよね……忘れられてそう」
困ったような笑みを浮かべていた。
「あ……」
ああ、傷つけた。
母親死んだばっかりでただでさえ苦しいだろうに。
俺は自分のことしか考えられない、ダメなやつだな。
加賀美百合に傷ついて欲しかったわけじゃない。
俺はまた取り返しのつかないことを……。
その時――。
「忘れられていたんだとしても――」
「『忘れられていたんだとしても』……?」
「彼との思い出は、私の心の中にずっと住みついていて……そうして、思い出すたびに私を元気にしてくれます。だから、彼が今も元気でいてくれるなら、忘れられていても良いんです……」
加賀美百合は、ふわりと微笑んだ。
……なんだよ。
メガネのちょいダサ女のはずなのに、なんだか妙に大人びて見える。
ただでさえうるさい俺の心臓の音が、ドクンドクンと大きくなっていく。
そんな中、加賀美百合が口を開いた。
「それに――」
「それに……?」
「最近は彼、テレビには出てきません。あんなにすごいプレイングをしていたのに……だから、先輩と同じで、何か理由があって、バスケを続けることが出来ないのかもしれません」
バスケ……?
「お前の推しも、バスケを……やってたのか……?」
そうして、加賀美百合が何か返事をしようとした、その時――。
ドンドンドンドン。
「すみません!! 大丈夫ですか!?? 棚を片づけますからね」
扉の向こうで声が聞こえる。
――タイミング悪く、警備会社が助けにきたのだった。


