3年越しのバレンタイン


「し……四ノ宮くんっ」

 翌朝、先に学校に来ていた四ノ宮くんの席まで行くと、わたしはうしろから思い切って声をかけた。

 振り向きながら仰ぎ見る四ノ宮くんの目が、わたしの姿を捉えるとふっと緩む。

「おはよう、笹本さん。よかった、今日は元気そうで。昨日、あのあと大丈夫だった?」

「うん。大丈夫。あの……昨日は、本当にありがとうございましたっ」

 その四ノ宮くんのまっすぐな視線から逃げるようにして、頭をがばっと下げる。

「いや。それより、倒れた笹本さんのこと、置いてっちゃってごめんな」

 四ノ宮くんの申し訳なさそうな声に、そっと顔をあげる。

「ううん。わたしの方こそ、迷惑かけてごめんなさい。あの……用事はちゃんと間に合った?」

「あー……それ、駅員さんに聞いたの? 大丈夫、問題なく終わったから」

 そう言って、曖昧な笑みを浮かべる四ノ宮くん。

 それだけ……か。

 わたしとの約束のことには、触れてもくれないんだね。

 ううん。あんなのは、一方的にわたしが手紙を送りつけただけで、約束とも言えないようなものだったけど。

 それに、こんな教室のど真ん中で『あの手紙、なんの用だった?』なんて聞かれたらもっと困るし。

 第一、他に用事があったんだから、仕方ない。

 自分にそう言い聞かせると、必死に笑みを浮かべ、「そっか。なら、よかった」と、心にもない言葉を吐く。

「えっと……それだけ、どうしても心配だったから」

「ああ。うん。わざわざ気にしてくれて、ありがと」

 そしてそのまま四ノ宮くんのそばを離れ——

 それが、四ノ宮くんとの高校最後の会話になってしまった。