「し……四ノ宮くんっ」
翌朝、先に学校に来ていた四ノ宮くんの席まで行くと、わたしはうしろから思い切って声をかけた。
振り向きながら仰ぎ見る四ノ宮くんの目が、わたしの姿を捉えるとふっと緩む。
「おはよう、笹本さん。よかった、今日は元気そうで。昨日、あのあと大丈夫だった?」
「うん。大丈夫。あの……昨日は、本当にありがとうございましたっ」
その四ノ宮くんのまっすぐな視線から逃げるようにして、頭をがばっと下げる。
「いや。それより、倒れた笹本さんのこと、置いてっちゃってごめんな」
四ノ宮くんの申し訳なさそうな声に、そっと顔をあげる。
「ううん。わたしの方こそ、迷惑かけてごめんなさい。あの……用事はちゃんと間に合った?」
「あー……それ、駅員さんに聞いたの? 大丈夫、問題なく終わったから」
そう言って、曖昧な笑みを浮かべる四ノ宮くん。
それだけ……か。
わたしとの約束のことには、触れてもくれないんだね。
ううん。あんなのは、一方的にわたしが手紙を送りつけただけで、約束とも言えないようなものだったけど。
それに、こんな教室のど真ん中で『あの手紙、なんの用だった?』なんて聞かれたらもっと困るし。
第一、他に用事があったんだから、仕方ない。
自分にそう言い聞かせると、必死に笑みを浮かべ、「そっか。なら、よかった」と、心にもない言葉を吐く。
「えっと……それだけ、どうしても心配だったから」
「ああ。うん。わざわざ気にしてくれて、ありがと」
そしてそのまま四ノ宮くんのそばを離れ——
それが、四ノ宮くんとの高校最後の会話になってしまった。



