「わ、私は、桐谷さんのチームのアシスタントで――」

気付けば震えている唇でなんとか言葉を紡ごうとすると、感情を一切排除したような低く平坦な声が発せられた。

「――少なくとも、君と僕とで個人的な会話をした記憶はない。僕は君という人間を知らないし、君も僕がどういう人間か知らないはずだ」

その声に、ほんのわずか、”軽蔑”という感情が滲んだ気がする。

「そういう間柄で、唐突にそんなことを言って来る。それも、いつ誰が通るか分からない、ガラス張りのオープンスペースで」

もう一度桐谷さんの溜息が聞こえた。

「大人なら、行動を起こす前にもう少し考えた方がいい」

そう言うと、そのすらりとした身体を翻し私に背を向けた。

「あ、あの……っ」
「――ああ、そんな配慮がないものでも、きちんと答えないとね」

こちらに顔だけを向け、眼鏡の奥の冷たい眼差しが私に注がれる。

「答えは不可です。君の恋人にはなれません。”まずは”も”次は”もない。じゃ」

冷めた視線が私から外れ、その背中と共に去って行く。

そんな眼差しさえ、魅力的に感じるなんて。

哀しいほどに、桐谷さんは最高の男なのだ。
私がした告白と同様に、他のどんな解釈も許さない、どストレートな答えが返って来た。