「これからは、気を付けま~す。でも、最終的に責任を取るのはアシスタントの中で唯一正社員である小暮さんでしょう? その分の待遇も受けているわけだから、他のアシスタントの尻拭い分も給料に入っていると思います」

な、なに――。

悔しいかな、何も言い返せない。
でも、考えてみる。
小森の言っていることも間違いじゃない。だからと言って小森が働かなくていい理由にはならない。

桐谷さんならなんと言うだろう――そう考えてみる。

”働かない人間を働くように仕向ける。それでも働かない時は、働いていないという事実を周りの人間に周知させろ”

そんな、感じかな。

でも、どうやって――。

「時間ないんですよね。早く、その資料ください」
「じゃ、じゃあ、チェックしてください。私の方でも一応確認はしました。でも、ミスがあるかもしれないので、さっとチェックしてもらえますか?」

小森の声に急かされて私は口を開いた。とりあえず『働かせる』という選択をした。
最初から諦めるのも違う。きっと”育てる”ということも大事だと、桐谷さんは言いたかったんだと思う。

「どんな資料を発送するかくらいは見ておいてください」
「え、ええ……」

小森が納得いかないような顔で私を見る。

「小暮さん、何かありました?」
「い、いえ、別に」
「そうですか」

ぶつぶつと言いながら、小森が資料に目を通し始める。

「問題なければ発送準備に取り掛かってください」

私は小森にそう告げて、自分の作業に戻る。
やるべきことは死ぬほどある。目と手をこれ以上無理と言うくらいに動かしながら、目の前にある膨大な資料を分類していた時だった。

「――その資料、これから発送するものですか?」
「えっ? は、はいっ!」

私の背後で、絶対に聞き間違えたりしない愛おしい人の声と猫かぶり声がした。
反射的に振り返る。私が座るその後ろで、資料に目を通していた小森の隣に桐谷さんが立っていた。

な、なぜ、こんなところに桐谷さんが――?

おそらく、この場で、私と小森、同じことを思っている。
小森も驚きを隠し切れなくて、女子アナスマイルが不完全になっている。完全に舞い上がっている。