「昨日、ああまで僕にはっきり言われたんだ。もう、そんな気持ちもなくなっただろう?」
「も、もちろん、もうダメだって思ったけど……」
「そのまま、『もうダメだ』って思ってください」
「でも、このままじゃ、自分にとってもダメだなって思ったんです。今変わらないで、この先私はいつ変われるんだって」

この口が、勝手に喋っている。心より先に口が動く、そんな感覚だった。

「絶対、絶対可能性はないですか? この資料のせいでドン引きましたか? 恐怖を感じてしまいましたか?」
「君に最初に告白された時点で、既にかなりドン引いたし恐怖も感じてる。まあ確かに、この資料にも戦慄を覚えたけど、衝撃まではない。君ならこれくらいおかしなことをしそうだ」
「だ、だったら私――」

桐谷さんの目が、私に真っ直ぐに向けられる。それは、まるで何かを宣告するように。

「この先何があっても、僕の判断は揺るがない」

知っている。桐谷さんの判断は、的確で早い。だから、誰よりも早く昇進し、誰よりも早く仕事をこなしていく。
それでも、私の心の中の何かが訴えて来るのだ。

「た、たしかに、私は少し人と変わったところがあるかもしれません」
「……少し?」
「どうして桐谷さんを好きなのか、どうして桐谷さんでなければならないのか、この資料に書いたので、それは分かってもらえたんじゃないかと思います。簡単にこの気持ちはなくせません。だから……っ」

資料に、中学三年の時の惨めな恋も、桐谷さんを好きになったきっかけも全部書いたのだ。
知らしめたのはダメな部分ばかりだったかもしれないけれど、この想いだって同じように通じたと思いたい。

もう、やけっぱちだった。でも、自棄だけじゃない。私の思いの丈、全部だった。