「き、桐谷さん! どうするんですか。明日、いろいろ聞かれますよ」

私の腕を引いてずんずんと歩いて行くその背中に訴えた。

「いつかは通る道だよ。遅いか早いかだ。僕ら、結婚するんだから」
「う……っ」

返す言葉もない。本当に、イケメンってどうしてこうも常に落ち着いていられるのだろうか。
私は観念して、手を取られたままで、桐谷さんの隣を歩いた。

「……でも、絶対、言われますよね。組み合わせが衝撃だって。それに、あまりに交際期間が短いですから」
「僕はそんなこと全然気にならないよ。むしろ、楽しいでしょ」

桐谷さんが私に微笑みかける。

「結婚して、恋人にも家族にもなれる。結婚しながら、恋愛もする。君の一番近くで君に恋が出来る。考えただけで、わくわくするよ」
「桐谷さん……」

そんなことを、そんな麗しい表情で言ってはダメです――。

「そう思わない?」
「思います。考えただけで、たまりません……っ」
「でしょ」

私も、桐谷さんの手を強く握り返す。

「二人で、恋愛して、一緒に家族になって行こう」
「はい!」

もう確信している。

この先も、私は桐谷さんに恋し続ける。

「私、もっともっと変わりたい。桐谷さんのそばで、変わって行きたいです」

桐谷さんに初めて想いを告げた日、私は変わりたいと強く思った。何もなかった自分を変えたいと思ったのだ。

あの日から、少しは変われたのだろうか。

少なくとも、ただ生きていた日々から、もがいて足掻いて失敗してあちこちをぶつけながらもいろんなことを感じて知る毎日に変わった。

「一人じゃなく二人で生きて行くんだから、お互いに変わって行く。僕が君といて変ったようにね。君の中の変わって行く部分も、変わらない部分も、全部見ているよ」

どうか隣で見ていて欲しい。

景色に埋もれていた私を、初めて見つけてくれたあなたに――。





【完】