「桐谷さん、今日はもう帰りですか? だったら、これから俺たちとどうですか?」

まずい。うちの監査事業部の男たちだ――。

「異業種交流会があるんです。相手、誰だと思います? CAですよ! いつもつれない桐谷さんでも、心惹かれるでしょう? 桐谷さん連れて行ったら、俺、女性陣に相当感謝されるわー」

異業種交流会――それは、つまり『合コン』だ。

「自分の素の実力に自信がないからって、そんなところでポイント稼ごうとするなよ」

もう一人のツレの男が、呆れ顔でぼやいている。

いつもの通り、彼らの視界に私はまったく入っていない。だから、そっと黒子のようにその場から離れようとした。
そうしたら、桐谷さんがコソ泥を捕まえる警官みたいに、私の腕をがっしりと掴んだ。

「――せっかくだけど、遠慮しておくよ。僕が交流する女性は、彼女だけで十分なので」
「え……? あの、それは、一体、どういう意味で……」

捕らえられている私と桐谷さんを交互に見て、彼らの目が激しく泳いでいる。その心境はよく理解出来る。
突然何を思ったのか、桐谷さんが私の手首を掴み、左の手の甲を彼らに見せた。

「桐谷さん! い、一体何を……っ」
「どういう意味って、こういう意味だよ」

驚く私にお構いなしに、相変わらずの冷静な声。

「ゆ、指輪……? 指輪って、二人は、お付き合いされて――? え? ちょ、ちょっと待ってください。こすげ、さんと、桐谷さん? え!」

”こすげ”じゃない。”こぐれ”です――って、そんなところをツッこんでいる場合じゃない!

「彼女の名前は、『こすげ』じゃない『小暮』だよ。ちなみに、近々『桐谷』になるけど――ということで、お疲れ様。さあ、華、行こうか」
「え? あ、は、はい。す、みません、失礼します」

その痛いほどの視線を浴びながら、彼らに素早く頭を下げる。

明日から、どうすんですか――!!