出勤のピークである時間帯なこともあって、たくさんの人がエレベーターを待っている。その中に私は完全に埋もれていた。

エレベーターがロビー階に到着して扉が開いたと同時に、どっと箱の中に人がなだれ込む。

その波の中で逆らわないように流されながら箱に入り込んだ。

それ以上中に入れないのに、これでもかと人が押し入って来る。

どれだけ抵抗を試みても、目の前のスーツの胸に身体を押し付けてしまった。

「ごめんな、さい……っ」

弱々しく謝ったそばから、突然さらに後ろから押し付けられて慌てる。その反動で目の前の人の足をヒールで踏んでしまった。

「う……っ」

呻き声が頭上から降って来る。

「す、すみませんっ!」

咄嗟にその身体から離れようとした。でも、それも叶わない。
目の前の人と後ろから押してくる人にぴったりと挟まれて、少しも身動きが取れないからだ。

申し訳なさのあまり、咄嗟に顔を上げた――。

「あ――」

桐谷さん――!

まさに、爪先をヒールで踏みつけ、私の身体を押し付けてしまっているのは、桐谷さんだった。