それでも、何の余地も与えないストレートな言葉が胸に残っている。
『答えは不可です。君の恋人にはなれません』
そして。
『――ところで君、誰?』
冷たい視線で放った言葉が、矢になって胸に突き刺さったままでいる。
だけどやっぱり、私は桐谷さんが好きみたいだ。
現実世界では空気みたいに過ごしている私に、たった一言掛けてくれた桐谷さんの言葉も、同じように私の胸に残っている。
例え桐谷さんが覚えていなくても、私にとっては紛れもなく現実で起きた出来事だった。
その時感じた気持ちを、なかったことにはしたくない。
「お姉ちゃん」
「ん?」
姉がパソコンのディスプレイから顔を上げる。
「私、これからは現実の世界を生きる。桐谷さんに恋をした自分を、ちゃんと現実の世界に連れて行く」
私の言葉に、姉が顔をくしゃっとして笑った。
「うん。どんな結果になっても、きっと、華を素敵に変えてくれる。お姉ちゃんはそう思う」
――どんな結果になっても。
桐谷さんに恋をすることで、致命的なダメージを負って再起不能になったとしても、桐谷さんが相手なら本望だ。それだけの男に挑むのだ。
姉がくれたきっかけを、無駄にしたくない。他の人と同じように、現実の恋をして、そして自分の足でこの先の人生を歩けるように。
27歳までの小暮華とは決別する。
私、今夜、妄想世界から抜け出します――!
もう一度、決意を新たにする。