────花火大会の帰り道のことは、あんまり覚えてない。塔ヶ崎くんが何か話しかけてくれたけど、うまく笑えなくなってしまって、相づちを打っただけ。
母親からも「早かったわね、もっと遅くなるのかと思った」と言われた。

別れる前に1枚だけスマホのインカメラで写真を撮った。塔ヶ崎くんがその日のうちに送ってくれた。
うまく笑えてない。『もっとくっついたら』って言われてしまうくらい、ギリギリ写る距離。
花火が上がった時は、くっついてたのにな。あの時に撮れば良かった。そしたらもっと笑えてたのに。

ダメか、後から見たら余計虚しくなるかも。
格好いいな、こうやって見ても。小さな画面の中にいる塔ヶ崎くん。前髪をそっと撫でる。
見たいな、青いところ。

はあ、とため息を吐くと塾のバッグを持って立ち上がった。
いつもみたいに『朝から会う?』ってメッセージが届いたけれど、『塾だから』と返信した。

塔ヶ崎くんがいなければ、そうしていたように、今年も変わらず、午前中は塾の自習室で過ごせばいい。
いつもより、捗る……はずだった。会ってない時より集中出来ない。問題集を閉じると、談話室へと向かった。飲食用に解放された部屋だ。
行きがけに買ったペットボトルの炭酸水のキャップを開ける。プシュッと音がして、炭酸の粒が逃げていく。

……(ぬる)い。外、暑かったからなあ。