さっきの女の子たちには『彼女?』って聞かれて、答えなかった。そうだ、とも……違う、とも。

でも、今のあの人には……
『そう』って言った。私、彼女じゃないのに。それともさっき言いかけたのは……
私、いつの間に彼女になったの?
あの人の隣に男の人がいなければ、『違う』って言ったのかな。あの人の前だから、強がってみせたのかもしれない。
そうしなきゃならない何かが……あったの?

「ほら、聡子、屋台で何か買う?」
「うん、せっかくだし。見てるだけでも楽しい」

花火が終わっても、楽しみたいと思う人が多いのだろう。まだまだ人が多い。

……綺麗な人だった。浴衣のセンスからおしゃれなのもわかる。
おしゃれな塔ヶ崎くんと並んでも見劣りしない。むしろ、お似合いだ。
向こうも男の人といたのに、なぜだろう。そんな風に思った。彼女なら、あの女の子たちも『納得』するのかな。

私……何でこの浴衣、気に入ってたんだろう。塔ヶ崎くんっぽいんじゃない。……地味だ。塔ヶ崎くんはもっと……

汗で張り付いた髪を直すふりして手をほどいた。
塔ヶ崎くんも、もう手を差し出しては来なかった。焼きそばのソースの匂いがしつこくまとわりつくような気がした。ここに着くまでは良い匂いだって思っていたのに。
花火が終わった人ごみは、ただここに、名残惜しく残っているだけ。