考えようにも、手を、にぎにぎしてくるから、思考が止まる。

「聡子は、どうして嫌がらないの?」

……どうしてって、そんなの
「嫌じゃないから」
頭は良い方なのに、バカにしないで、とかいいながら、私も子どもみたいな返答をしてしまった。
「どうして、嫌じゃないの?」
「そんなの! 塔ヶ崎くんのこと好きだからに……決まって……」

にこ、と笑われて、かぁっと顔が熱を持つ。

「聡子は、付き合ってなくても手つないでいいの?」
「……え、うん?」
わからない。けど、繋いできたし。嫌……じゃないし。

「じゃあ、付き合ってなくても、どこまでならいいの? 」
「どこまで?」
「手は、いいんだろ? それ以上は?」
「……それ以上……? ダメ、だと……思う」

手を繋ぐのも……本当は……

「じゃあ、さ……」
塔ヶ崎くんがこっちを見てくるから、私も塔ヶ崎くんを見る。

たくさん、たくさん、人が行き交う、雑踏の中なのに、塔ヶ崎くんだけしか見えなくなった。他は何も見えない……。何も聞こえない。そんな気がした。

ふと、塔ヶ崎くんの瞳が少し動く、私とは違う場所で……そこで止まると、見開かれたままで止まった。

「……(せん)くん……」
塔ヶ崎くんの視線の先、そこにいた人が、塔ヶ崎くんをそう呼んだ。