『「聡子! こっち!」』

スマホからも直接もどっちも声が聞こえる。通話、切っていいのかな?スマホを耳から離すと

『「聡子、浴衣じゃん。めっちゃ可愛い!」』

上からも、手に持ったスマホからも
『可愛い』って聞こえて、大きな声で言われて、恥ずかしいのに嬉しい。すごい心が忙しい。浴衣着てきて良かった。

「場所、取っといたから、座って」
「ああああ!」
「……何?」

浴衣、浴衣!塔ヶ崎くんも浴衣だ。()なりの浴衣には黒の帯。

「か、格好いい!」
「……え、あり、がとう……。ここ、1回座ったら混み混みで花火終わるまで動けないから。何か買ってくる。何がいい?」
「焼きそば!」
「ふっ、はい。動かないでね。ナンパされないように!」

最後のは冗談だろうけれど、格好いい。あんなに浴衣、似合うの?びっくりした。あー、びっくりした。

……あ、『格好いい』って、言っちゃった。
時間差で顔が熱くなってきて、小さな手鏡をそっと覗くと、そこには赤い赤い人が映っていた。……可愛くは、ない。いつも通りだ。鼻も高くなってないし、特徴のないいつもの顔。でも、塔ヶ崎くんさっき可愛いって……。浴衣。浴衣か、浴衣が可愛いって言ったのか。
ふうっとため息をついて気持ちを落ち着かせようとした。