夏休みに入る前、先生の言った
「しっかり思い出作れ」という言葉は私の心を震わせた。

一夏(ひとなつ)の思い出が欲しい」
陽葵がそう言うと、私も黙ってられなかった。「……うん、自分が変わるくらいの……」
清夏と陽葵が顔を見合わせるくらい、私がそう言うのは意外だったのだろう。
それに感化されたのか、清夏も
「私も……恋がしたい」と言った。
それを茶化すことは誰にも出来ない空気だった。

「一夏の思い出……」
「作っちゃおうか」
「なんか、響きが卑猥」
うん、派手な陽葵が言うと。さすがに言えないけれど。
「いやいや……でも、そうだね。聡子も清夏も進学でこれから勉強ばっかりになるもんね。この夏が最後のチャンスかもしれない」

そうだ、このままでは私の高校生活は意に添わない勉強だけで終わってしまうことになる。

「私は、誉田くんとデートがしたい。たった一回でいいから」
陽葵が心からそう言った。
「私は、私らしくないことをしたい」
ずっと、頑張ってきたから。一回でいい。

私たちの真剣な表情に
「どした?」と日野くんがやってきて不思議そうにそう尋ねた。
そしたら、清夏がそわそわと落ち着きなさそうに日野くんの事を見ていた。
そんな清夏に、日野くんも陽葵も気づくこともなくやいやい言っていた。