【side 塔ヶ崎】
(おもて)立って、昂良に松下とデートでもしてやってよって言っても良さそうなものだけど

陽太は《《松下のために》》クジでペアを決めようと言い出した。横目で取り換えたの見えたけど、どうでもいいから何も言わずにいた。
昂良は昂良で親友が好きな女をすすめられたところで心中複雑だろうに、それを止めろと言うのも悪いと思っている。
なんていうか、気の遣い合い。そんなクジ引きは、思ってもみないペアになった。

……あれ、何でだ?
みんなが確認する前にもう一度取り換えたって良かったのに
「じゃあ、俺は細川さんとだ」昂良が『2』と書いた紙を《《いち早く》》ピラピラ振ってみせた。

昂良が少し笑った気がした。昂良は松下とペアになりたくなかったんじゃない。陽太に松下とペアになって欲しかったんだと悟った。
昂良の優しさはそりゃもう、めっちゃ、わかりにくい。そしてちょっと不気味。

ふっと笑うと
「何だ?」と、顔をしかめる。
「べっつに、お前も楽しめよ、自分は自分で」

とは言ったけど、昂良も陽太もどうするのかね……

真っ先に教室を出た俺に、昂良と陽太が並ぶ。
陽太はため息ついてるし、昂良はほんのちょっと、満足そうだ。

「ちゃんと、困らせるなよ、清夏ちゃん」
陽太が昂良を注意すると

「あ、そうだな」はっとした顔で言った。おおよそ、陽太が松下とペアになったことに満足し、自分の事を考えてなかったんだろう。