「いつも誰かが入学とか卒業とか、受験とか、そんな大事な時期で常にバタバタしてるわ。かく言う俺たちも来年受験生とあれば、今年は少しだけ休憩だよな。ほんの……少しだけど。だから、陽太の提案に乗った」

「……思い出」
「うん。結構楽しいな?」
「……うん」
「今、間があったな?」
「ない」
「あった」
「ない。楽しい、美味しい」
「まあ、いいや。食べて」

すすめられるまま、もくもくと頂いた。
美味しい。なんて言うか、ここではすごく時間が丁寧に流れる気がした。何もしていないのに、とても大事な時間を過ごしている気がする。

この時間を『楽しい』と思ってくれることが嬉しい。塔ヶ崎くんにとって何のメリットがあるのかわからない。

空っぽの木のお椀に、もう1杯味噌汁をよそってくれる。あの水色の髪の人が作ったとは思えない上品な味。
それから、味噌汁を作るのにも我が家では見たことないくらいの大きなお鍋に、ちょっと吹き出してしまった。

「……お鍋、大きすぎない?」
「え、そう? もうちょいしたら弟と妹帰って来るからな。一瞬で無くなる」
「いくつ? 」
「中3と中1」
「育ち盛りだもんね」

ひとまず私は、今日家に帰ったらお味噌汁とおにぎりを作る練習をしてみようと思う。

「聡子、眉間のシワ!」
「あ、ごめん」

慌てて、眉間をこすって、シワを伸ばした。