「あ……」
塔ヶ崎くんが時計を見ると立ち上がって、ピアノの上の真っ白な猫、フェニックスを抱き上げた。

「お薬の時間です」
そう言って、キッチンの方へ連れていった。
「頑張って飲もうな、あ、ダメだって。ほら。うん、おりこうだな。天才!」

塔ヶ崎くんの声に吹き出してしまった。
じとっと睨まれてしまったけれど
「吐くなよ」フェニックスにそう言って、抱いたまま椅子に腰かけた。
寄ってきたパーシモンの喉元を空いた手で撫でながら
「おやつあげたんじゃないって、パーシ、お薬!」

『お薬』とか言うからまた吹き出してしまった。

「……何だよ、どうせ俺は猫の下僕だよ」
と、拗ねてしまった。

「いや、何も言ってないよ。可愛いもんね」
「うん、今こいつ調子悪いんだ。生まれてすぐの時の状態が良くなくて免疫が弱い。体調管理には気を使ってるんだけど、フェニックスの為にも他の猫も絶対元気じゃないといけないし。だから、なるべく誰かが家にいるようにしてるんだ。夏休みは一番暇な俺が家にいることになってる」
「……じゃあ、だから私を家に呼んだの? 言ってくれたら良かったのに」
「説明ダルいもん。暑いのも本当だし」
「ええ、ちゃんと言えば好感度上がったかもしれないのに!」
「はは、嫌われてんのに、どっちでもいいわ」

「……まあ、そうかもしれないけれど」

嫌いな人にも嫌われたくないだなんて思ってた私が小さな人間に思える。