「えーっと、塾まで時間は?」
「あと2時間。30分前にはここを出たい」
「うん、勉強する?」
「……手につかないと思う」

「だな、俺も。続き、また明日でいい? 飯にしよう。何か作る」
「え、悪いよ。さすがに。作れるの!? お家、誰もいないの!?」

「急に質問いっぱいキタ。俺も食べるし、クロックムッシュくらいだけど。今日は誰もいない」
「ありがとう」

これまた高そうなハムとチーズにクリームソース。それに茎が紫のベビーリーフが添えられていた。
パンも美味しい。生地が茶色っぽくて粒々が入ってる。

「ライ麦パンね。顎が丈夫になりそうなくらい硬い。うちのパンいつも硬い」
「うーん、噛めば噛むほどってやつかな?
美味しい! 」
食事の間、塔ヶ崎くんはずっと笑わせてくれて楽しく過ごせた。ものすごく気を遣ってくれたのだとは思う。

──結局、食事が終わると塔ヶ崎くんの家から直接塾へと向かうことになった。

「勉強、出来なくてごめん」
って謝られたけど、塔ヶ崎くんのせいではないし

「塾ではちゃんと勉強してね」っていたずらっ子みたいな笑顔を向けられてはカッと顔が熱くなってしまった。
「するよ! ちゃんと!」
言い返したけど、門まで出てきた塔ヶ崎くんが別れ際……というか、2、3歩、歩きだした位で

「そうだ、聡子! 念のため言っておくけど……俺、今彼女いないから」
と、大きな声で言った。

私は振り向くことが出来なかった。
……塾では勉強しよう、絶対に勉強しよう。かなり意思を強くもたないといけないだろう。