もう一つ、勇気を出さなきゃならないことがあった。塔ヶ崎くんが
「頑張れ」って言ってくれた。

進路調査の紙を手に、両親の前にいた。

「お父さん、お母さん、聞いてくれる?」

ずっと、医大で考えてたけれど……伝えなきゃならなかった。悲しませてしまうかもしれないけれど。

「私……医学部には行きたくない」

立ったままだった母親がテーブルに向かい椅子に座った。父親も持っていたリモコンでテレビの電源を落とした。

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塔ヶ崎くんのお陰だと思う。
こんな風に自分の中の気持ちに気づけたこと。ただの通り道だった高校生活を特別な時間に変えてくれた。

「お父さん、お母さん、ちょっと出てくるね。すぐ帰ってくるから」

そう言って家を出た。こんな時間に家を出ることだって、少し前の私には考えられなかった。

その人は、そこで待ってくれていた。
嬉しくて、ほっとして、抱きつく。

「……言えた?」
「うん」
「……大丈夫だった?」
「うん。お父さんもお母さんも重荷になってごめんって……でも、そうじゃないってちゃんと言えた。私、ちゃんと自立して頑張る。お医者さんにならなくても、自分で生きて行けるようななる!」
「うん、聡子は大丈夫だって、知ってる。俺も、お父さんもお母さんも知ってる。頑張ったな」

そう言われて、ポロリ涙が出てしまった。