私が塔ヶ崎くんの家を知っているのは……というか、みんなが知っているのは
塔ヶ崎(とうがさき)なんて珍しい苗字は《《そこ》》以外にはなく、そこからさほど離れていない一等地に【塔ヶ崎クリニック】という病院があるからだ。
昔からある病院で、元は他県のデッカイ総合病院のエライさんだった先代か先々代……塔ヶ崎くんのお祖父さんかお父さんかが開業したとか。
だから塔ヶ崎くんはそこの息子ってことだ。うちの高校もそこそこの進学校だが、彼ならもっと……いや、彼の《《家ならもっと》》有名私立に行かないのかなと思ったものだった。

──ここだ。
立派な洋館の前で足を止めた。
日当たりの良さそうな広い庭。既製品のカーテンでは合わないだろう大きな窓。ゆったりとした余裕のある造りだ。
インターホンを鳴らすと、
『入って』と塔ヶ崎くんのこえが聞こえ
重量感のある門戸のロックが開く音がした。

「お邪魔……します?」
まだ門から庭へ入っただけで、玄関でもう一度言わなきゃならないけれど。

わぁ!綺麗。イングリッシュガーデンっていうのかな?
植物がたくさんあって、鉢植えもあるけれど、ちゃんと陶器製のもので統一されている。
自由に咲いてるみたいに見える花もちゃんと綺麗に見えるように計算されてるんだろうなぁ。なんて考えながら通りすぎる。