聡子からも、いつもと違う空気が出てる。なんつーか、浮かれてくれてるような。

俺も相当浮かれてるけど。
ペアだって浮かれてたら、ドラえもんとか言われたけど、それすら楽しい。

以前の、武道派みたいな視線じゃなくて、熱っぽい視線。聡子が俺を好きだって、わかる。そんな視線を投げてくるようになった。

手くらいは繋ぎたい。
行き交うカップルの手ばっか見てる聡子に、聡子もそうだといいなと思う。

「言っとくけど、『はぐれたらダメだから』でも『浴衣だと歩きにくいから』でもないからな」
繋いだ手にそう言った。
そう言わないと、その理由で繋いだと疑うこともなさそうだから。

そんな浮かれた空気は知り合いに会うと、少し曇った。
筒井たちのグループに声を掛けられ、聡子への視線に悪意があった。幸いすぐに行ってくれた。

「聡子は、どうして嫌がらないの?」
「嫌じゃないから」
俺としては、仕掛けたつもり。ゆっくりでもいい。でも、その先を考え事欲しかった。
手を、繋ぐってこと。

「どうして、嫌じゃないの?」
「そんなの! 塔ヶ崎くんのこと好きだからに……決まって……」

じゃあ、俺が繋ぐのも同じ理由だって、わかるはずだ。聡子が自分で答えに気づいてくれるように誘導する。

「聡子は、付き合ってなくても手つないでいいの?」
「……え、うん?」
「じゃあ、付き合ってなくても、どこまでならいいの? 」
「どこまで?」
「手は、いいんだろ? それ以上は?」
「……それ以上……? ダメ、だと……思う」
「じゃあ、さ……」

じゃあ、聡子は、その先はしたくないの?
……付き合いたくないの?

って聞くつもりだった。