「まあ、そうだな。そっか、学校の先生じゃないもんな。スーツ着てたから大人っぽく見えたけど、大学生ってこともあるのか」
「……塔ヶ崎くん、先生の顔、見えた?」

「いや、俺の方からはあんまり」
「そっか」

じゃあ、あの人が誰かわかってないのか。
私から話すのもどうかと黙っていた。

私の前髪を触ってた塔ヶ崎くんの手が、そこから離れた。

「よく、わからないな」
ボソリ、そう聞こえた。

「え?」
「どうすんの、これから」
「これからって」
「聡子はどうしたい? 」
「……どう」

夏休みの思い出は十分出来た。全部が私らしくないことで、もう終わってもいいのかもしれない。
そうだ、忘れてた。私たちはクジでペアになったから一緒に過ごしただけ。

「言い方、変えるね。まだ俺といたい?」
「……うん」
「そっか。じゃあ、俺も……信じることにする」

塔ヶ崎くんがそう言って、テーブルに置いた私の手をポンポンと叩いた。

どういう意味かわからない。
塔ヶ崎くんのこととなると、ますますわからない。

「……あと、何する? 夏休みしか出来ないようなこと。海でも行く?」
「海もちっちゃい頃しか行ったことない」
「……そっか」
「水着買おうかな」
「え、行く?」

何だ、冗談か。浴衣買ってもらったとこだしな。
「いや、いいよ」
首を横に振った。