「納得出来ない?」
「してるんだよ、頭では」
「気持ち……てことか。そうだよな。気持ちだけは……仕方がない。別に今日じゃなくても、いつでも直ぐ言って」
「うん」

これ以上はダメだ。何か言ってしまったら塔ヶ崎くんはその通りにしてくれそう。
好きな人のことだからこそ、本人より気づくこともある。

「全然だな。でも避けないで、時間ちょうだい。ちゃんと納得できるようにするからさ」

……これだけ言ってくれたらもう、十分。これ以上心配かけないように笑顔を作った。
塔ヶ崎くんも、笑ってくれた。
テーブルに突いた腕に乗り出すように、私に近づく。

ドキッとして、目を閉じてしまった。ふっと塔ヶ崎くんが吐いた息が前髪にかかる。

「これ、誰のために張り切ったの?」

そっと指先で、前髪を横に流される。前髪がない分、遮るものがない。近くで綺麗な目がじっと見てる。
「この前、こうやって、触ってた。何で?」
「えっと、先生? 前髪が乱れてたから、だよ」
「生徒に、そんなことする?」
「うん、だから秘密……で」

塔ヶ崎くん、もしかして、先生があの人と一緒にいた人だって気づいてない?

「秘密……?」
セクハラとか言われたら可哀想かな?と思って言った。
「先生、若いんだよ。まだ大学生なの。恋愛対象に全然入……る」

あ、塔ヶ崎くんの元カノ、大学生なんだった。塔ヶ崎くんの顔が……曇った気がした。