「……今日、いつもと違うね。塾にはそんな感じで来てんだ」
「……いや、そんなこともないけど」

「ん」塔ヶ崎くんが、無表情でこちらへ手を差し出して来た。
あ、手……?繋いでいいの?その手に自分をそっと乗せた。

塔ヶ崎くんがそのまま動かなくなってしまった。手も握り返してくることもなくそのまま。

「え? どうしたの?」
「いや、カバン……。持とうかなって、重そうだし……」
「あっ、カバン!? そっか、カバンか。あは、そっか、そうだよね。4教科入ってるから今日は最悪に重い。っけど、大丈夫、大丈夫、ありがと、ありがと」

慌てて手を離す。そしたら、ふっと笑って「いいや、貸して」ってカバンを持ってくれた。
「あり、がと」
私は両手が空いてしまって手持ちぶさたにぶらぶらする。
塔ヶ崎くんも私と反対側でカバンを持つから、空いてる方の手はぶらぶらしてる。
時々、少し当たって恥ずかしくて、無意味にそっちの手で前髪を整えたりして。

チラリ、塔ヶ崎くんを見ると、向こうもチラリこっちを見ていて
「何だよ」って照れくさそうに笑った。
あと、「やっぱ、繋ぐ」って言ったから、私も「うん」って言った。

居心地の悪かった右手が塔ヶ崎くんの左手にすっぽり収まった。
暑いのに、恥ずかしいのに、そこはとても居心地が良かった。