「あ、す、すみません」
「うん、似たような問題、何問か用意したから解いてみて。わからなかったら明日……関本先生でも俺でもいいし、聞いて……」
先生の視線が一瞬、外へ向けられ、私へと戻った。

「……彼氏、来てんじゃん。ほら、可愛くして行っといで」

私の乱れていたらしい前髪を指先でサッと流してくれた。
……え?彼氏?
そっと振り返ると、そこに塔ヶ崎くんの姿があった。

「ああ、彼氏じゃないんだっけ? 俺としても早くくっついて欲しいなあ」と、耳元で言われ(他の生徒に聞こえたら大変だから)
かぁっと顔が熱くなった。

「……先生も」そう言うと
「うん」と頷いて「お疲れ様」と、階段を上って行った。

「先生、さようなら……」
先生の背中を長く見送ったのは、振り返るのが怖かったからだ。そっと振り返ると

「終わった?」
塔ヶ崎くんがにっこりと笑った。

「うん、誰か……待ってるの?」
私かなって思ったけれど、メッセージも届いてないし、約束もしてない。
あの子たちの誰かかもしれない。そう思い直した。

「聡子、待ってた」
……私、だった。だとしたら、“どうしたの?”なんて聞かなくてもわかる。塔ヶ崎くんが何でここに来たのか。

「……うん」

避けてても仕方がない。一方的な心理的な原因で避けてた、だなんて塔ヶ崎くんにしたら理不尽だもんな。