ジロの頭に飛びついて、彫刻刀の刃を目の内側に突き刺したかと思うと、柄をくるんと回して、目玉を繰り抜いたんだ。まるでたこ焼きをひっくり返すみたいに。それで、どうしたと思う?つながっている神経を引きちぎって、喰いやがったんだ、あいつ、ジロの目玉を。

そして、今度はルリに飛び移った。さっきとは少し違って、じっとルリの目を見つめながら「目玉、よこせ。おい、死ぬなよ、生きたままの目玉をよこせ。ママの目にするんだから」そう言って、ゆっくり丁寧に繰り抜いた。

あいつ、ルリの目玉を、あの彫刻にはめ込むつもりだったんだろう。あの彫刻は、おそらく、死に別れた母親の顔だなんだ。恋しさのあまり、何年もかけて母親そっくりの彫刻を彫ったんだろうな。

でも、いくら上手に彫っても目だけはうまく彫れなかった。それで、女のルリの目玉を入れて、母親の彫刻を完成させようとしたんだ。

被害にあった3人とも、悲鳴ひとつ上げてない、なんの抵抗もできないまま、あいつに繰り抜かれたんだ。体の自由は奪われてても、きっと痛みだけは感じてたんじゃないかな。俺には、心の悲鳴が聞こえたような気がしたよ。「ジン、助けて~!痛いよ~!」って。

俺はもう怖くて必死で逃げた。学校裏まで走ったところで、後ろからおじさんの声がした。ああいう時、大人の声って安心するんだ。助かったような気がした俺は、不用意にも振り向いてしまったんだ。

そしたら目の前にあいつの顔。鼻がすりそうなぐらい近くに居た。とんでもない怨霊の目の怖さを知ったよ。狂気と怨念に満ちた暗い目を。

そしてギ~、ギ~って、歯ぎしりを始めやがる。俺はもう意識が飛ぶ寸前だった。もう終わりだな、って、そう思った時、おじさんが追いついて、懐中電灯で俺の顔を照らしたんだ。