思わぬ展開だった。石田のほうから取材を了承してくるとは夢にも思わなかった。これで石田の体験を聞くことができたら、無理にあの危険な現場の取材を続けなくても、最低限の仕事はやりとげたことになる。なんと言っても取材相手は『本物の恐怖』の体験者であることは身をもって知っている。

「こんにちは、黒川です」

「ああ、悪いね急に呼び立てて、上がってくれ」

石田は、相変わらずうつむいたまま、顔をあげようとしない。

黒川は、奥の居間に通された。台所の横を通るとき、奥さんらしき女性が背を向けてぽつんと座っていたので、挨拶したが反応がなかった。

この夫婦、うまくいってないのだろうか。もしくは、旦那が、自分の知らない女を自宅に招いて、快く思っていないのかも知れない。

「狭くて悪いが、そこ、座って。紅茶でいいかい?」

「あ、はい。いただきます」

「君、あいつと会ったって言ったよねぇ、あの村まで行ったんだね」

「はい、そこで林さん、あ、ご存知です?林イスケさん。46歳のかたですけど」

「たぶん、息子だろう、おとうさんはよく知ってるよ」

「じゃぁ、そのお父さんも人と目を合わせるのを怖がっていたのは?」

「そりゃそうだろ、俺と一緒に体験したんだから」

「20年前、村人7人の目を奪われた事件のときですね。じゃあ、あなたも居た。そして、あの事件がきっかけで、恐怖に苦しめられるようになった」

「そうだ、で、君はどこまでわかってるんだ?話をする前に聞いておきたいんだが」

黒川は、自分で調べてきたことを石田にすべて話した。

「なるほど、思った以上に知ってるな。俺の体験を話せばすべてがつながりそうだ。じゃぁ教えてやろう、あの夜なにがあったのか」

「あ。ちょっと待ってください」

黒川はICレコーダをテーブルに置きスイッチを入れた。

「どうぞ、お願いします」