黒川は、その後、あの現場へ立ち会ってくれそうな霊能力者を何人も当たったが、危険すぎるという理由で断られ続けていた。中には血相を変えて、そんな場所には二度と近づかないよう説得する霊能力者もいる。

黒川も、さすがにこれだけ専門家達に断られると、自分も段々臆病になっていく。途中で投げ出すようなことはしたくなかったが、今回は次元が違う。事情の知らない他の記者たちに、黒川が始めて事件を投げ出した」なんて言われるのはしゃくだったが仕方がない。

なんだかしまらない気はするが、自分自身の体験談として記事を締めくくるつもりであった。もちろん林と約束した『うわさ話』は、はぶかざるを得ないが。

そこへ、思わぬ相手から電話がかかってきた。石田ジンである。

「黒川さん?いや、どうも、覚えてるかな?石田です」

「もちろんですよ、石田ジンさんですよね、どうされました?」

「まだ、取材は続けてるのかな?もう他の事件でも?」

「とんでもない、ずっと追いかけてますよ。20年前、あなたの故郷で起きた恐ろしい事件。それがあなたの恐怖の体験。違いますか?」

「事件の真相、話そうか?」

「え?またどうしてそんな気になったんですか?・・・あ、ごめんなさい。失礼な言い方でしたね。でも、あんなに拒んでらっしゃったから、つい」

「あれから俺も考えたんだよ、このまま自分の中にしまっておいていいものかどうか。いっそ誰かに話してしまったほうが楽になれるんじゃないかと思ってね」

「あんなのが相手じゃ、今まで相当苦しまれたんでしょうね、お察しします」

「あんた、あいつを知ってるのか?」

「はい、会いましたから、『不意に出くわすもの』に」

「よく無事でいられたな、それにしても、そこまで突き止めたとはたいした記者さんだ。こちらも話す相手に不足はないよ」

「ありがとうございます。で、どこへお伺いしましょうか?」

「うちに来てもらおうか、今日は一日いるから」

「わかりました、じゃぁ、早速ですけど・・・3時頃でいかがでしょう?」

「わかった。じゃ、待ってるから」