軽トラックは山手に見える小学校を通り過ぎ、ちょうど裏に回ったあたりで停止した。そこには更に細い林道が伸びていた。いや、林道というより獣道に近かった。

「ここから少しあがったところです、足元気をつけてくださいね」

林は黒川の足元を気遣いながら先に進んだ。黒川は以前石田に、サンダル履きでの運転を注意されてから、スニーカーにしていた。もちろんこんなところで役に立つとは思っていなかったが。

「ここですよ、ほら、あの茂みの影に廃屋が一軒見えるでしょ?被害者はあそこに住んでいた家族4人と、この辺りで、中学生が3人が見つかったんです」

黒川は、うっそうと茂る草木を掻き分け民家に入った。ずっと手付かずにされていたようだが、特に他人に荒らされたような形跡はない。

20年間積もったほこりの下に、洗いかけの食器や、読みかけの雑誌などがそのまま残っていた。家族4人の平凡な夕食後のひとときを、よほど一瞬にして奪ったのだろう。抵抗した様子がまったくない。

体験者の言葉が頭をよぎる。『不意に出くわすもの・・・』

黒川は、壁や、家具のところどころに、不自然に付いた傷跡を見つけた。なにかで引っかいたような深い傷。ほこりを払い、よく見てみたが意味のあるようなものとは思えなかった。やはり、獣とか、そういうたぐいの仕業なのだろうか。

「林さん。この道の先はまだ何かあるんですか?」

その民家の先に、まだ道が続いているようだったので、聞いてみた。

「古い物置小屋があるだけで、そこで突き当たりになってます」

「こんな茂みの奥になぜ物置小屋なんかが?」

「地元の者でもこの先はめったに入りませんから、わたしもよく知らないんですけどね。なんなら行ってみます?」

「ええ、ここまで来たついでですから」

と言ったものの、思っていたより遠く、その小屋までにはずいぶん草木を掻き分けて歩くことになってしまった。