一週間後、急ぎの仕事をそこそこ片付けた黒川は、長時間車を飛ばし、葉書の送り主の村を尋ねた。

目の前に、全国でも名の知れた霊峰のひとつがそびえ立つ。その山のふもとの、過疎化が進んだ小さな村がそうだ。民家に続く道は、まだ舗装が進んでおらず、杉林の間をすり抜けるように通された、いわゆる「昔ながらの林道」であった。

山手に、古びた木造の学校が見えていた。もう古くから使われていないこの学校は、以前、心霊スポットとして紹介されていて、黒川も見覚えがあった。たしか蓑虫が異常発生したことで、それをなにかの怨念に無理やり結び付けたような内容だったと記憶する。

「ここね、誰かいるかしら」

狭い林道の入り口で車を停めて10分ほど歩いたところで、葉書に書かれた住所の家を見つけた。表札に書かれた苗字も送り主と一致する。椿の垣根に囲まれ、広く取られた庭に色々な野菜が植えられた小さな畑、雰囲気のある縁側、いかにも田舎の民家という感じの家であった。

中の様子を伺っていると、一台の軽トラックが、狭い林道を上手にすり抜けながら駆け上がって来る。よほどこの道に慣れているようだった。自分なら間違いなく一発で脱輪、即SOSだろうと黒川は感心しながら見ていた。

「何かご用ですか?」

その軽トラは黒川の横で停車し、窓ガラスを下ろして40半ばの男性が顔を出した。

「失礼ですが、こちらの家の方ですか?」

「ええ、林ですが、なにか?」