それからは走って、苦しくなったら歩いて、走れそうなら走ってを繰り返し、家に着いた。



住宅街に埋もれている小さな一軒家だ。



「ただいま」



「おかえり」



母の声がした。



居間に入ると、ご飯を食べ終わりそうな母と、妹がいた。



「遅かったね」



「うん、友達と遊んでから帰ってきた」



「あんた、ようやく友達ができたの。よかったね」



「うん」



私なんかと友達になってくれる、とってもいい人なんだ。



「咲耶も、今日彼氏ができたんだって。しかも超イケメン!」



「もう、お母さんやめてよぉー。まあ、アタシに釣り合うくらいのイケメンはなかなかいないけどぉ」



妹が照れたように言って、ツインテールの毛先を指にくるくる巻きつけた。



小柄でアイドル並に可愛い妹はどんな仕草も似合う。



「でねでね、ハルくんはイケメンなだけじゃなくて、運動も勉強もできて完璧なんだよ」



「そんなすごい人捕まえるなんて、さすが我が娘だわ」



「まぁね」



母と妹は笑いながら食後のお茶をしていた。



私はその横で夕飯を食べる。



居心地の悪さを感じながら、私は顔を隠すように長めの前髪を整えた。



少しでもこの醜い顔が晒されませんようにと。



「ごちそうさま」



彼氏の話題で盛り上がる母と妹を横目に食べ終わった食器を片付ける。



そのあとはお風呂に入って寝るだけだ。



「…………ふふっ」



布団の中で思い出して、笑ってしまう。



今日の、あまりに現実味のない出来事に。



大型の虫の行進、戦うイケメン生徒と愛らしい中型犬、そして、友人の金髪美人イカネさん。



朝起きたら、夢だったと気づくのかもしれない。



それでも今は、楽しかった今日という日を何度でも思い出すのだ。



この幸せな思い出だけで生きていけるように。