「てっ、めえ! 何しやがんだ!」
「こっちのセリフじゃ! 何しやがるんですか!」
「乗っ取られてたお前を戻してやったんだよ! さながら王子様のキスだろ」
「ふっ、ざ、けんな。こちとら、彼氏いない歴イコール年齢のボッチなの。ファーストキス……」
「相手が俺様でよかったじゃねぇか」
さも当然という先輩の顔に、苛立ちがつのる。
「………一発……いや、気の済むまで殴らせて」
「助けてやった恩人に向けてその態度か? あぁん?」
「もっと! 別のっ! やり方がッ! あった! しょ!」
私の拳は最小限の動きで躱される。
当たりそうで当たらない、ムキになり、がむしゃらに振り回す腕も、もちろん当たらない。
結果、先輩は涼しい顔で笑っているし、私だけが息も絶え絶え。
「気が済んだか?」
「………っ、はぁ、今回は見逃してやるわ…………」
嫌悪感より恥ずかしさが勝っていたことは、記憶の彼方に追いやった。
いい汗かいてスッキリした気分でいると。
「ハル君、アタシ、ここで襲われたの!」
「よしよし怖かったね。僕が来たからにはもう大丈夫」
暗い木々の隙間から、イチャイチャ腕を絡ませた弟君と妹の登場で、気分だだ下がりだ。
先輩も冷めた目で二人を見ている。
向こうも、私たちに気づいた。
「………兄さん。咲耶を襲った犯人はお前だったんだね」
「そこの彼女が襲われた時、俺は陽橘と一緒にいたな」
「なら、お姉さんが犯人だ」
「俺が来た時には、こいつは気絶してたぜ。何もできやしねえよ。んで、俺が追い払った」
多少、脚色入ってるだろうが、保身のために仕方ない。
私はボロが出そうなので、全て先輩にお任せする。
「ここから桁違いの神力を感じたんだけど、心当たりは?」
「ねぇな」
「隠し立てしてもいいことないよ?」
弟君は、私が生まれ変わりだと疑ってる。
「お姉ちゃんにそんな力あるわけないじゃん」
「………そうだよね。咲耶の言う通りだ。こんな近くに何人も居るわけない」
咲耶の言葉をすんなり聞き入れる弟君。
私と先輩は、真顔のまま内心ほっとした。
「兄さん達に構ってる時間がもったいない。行こう、咲耶」
「うん! ハル君!」
彼らは笑いながら山を降りていく。
台風一過か。
「……………戻るか」
「………うん」
「………ワフ」
疲れ切った先輩のひとことに、私とヨモギ君は同時に頷いた。
荒れた拠点を片付けるのは、後回し。
咲耶達の襲撃のせいで流れていた五右衛門風呂に入ることもなく、とっとと寝た。


