暗くなり、中央のキャンプファイヤーとは別に、四方に光源の火を灯す。
離れた複数の位置への発動と維持は想像以上に気を使う。
加減を間違い山火事の危機になれば、イカネさんが都度消化してくれた。
「あの人たち、今頃は、ログハウスで豪華なご馳走たらふく食べてるんだろうなぁ」
食後のマシュマロを焼きながら、家族に思いを馳せる。
いやね、バーベキューがマズイとかそんなんじゃあないんだけども。
「同じ空間にいるより楽で良いさ」
焼き上がったマシュマロをヨモギ君に渡す先輩は、なんでもないことのように言う。
あの人たちの前では、イカネさんも、ヨモギ君も呼ぶことは避けたい。
味方でもない人達に、こちらの手札を見せるわけにはいかないからだ。
ここは、イカネさんのお札効果で外に光も漏れていないので、のびのび訓練ができる。
合宿として、とてもよい環境だ。
あの人たちとログハウス、イカネさんとテント。
どちらを選ぶかなんて、決まりきっている。
「それな」
あちら側に羨ましい要素なんてなかった。
イカネさんがいるだけで、地獄さえも天国。
「そろそろ風呂の準備でもするか」
「やった」
待ってました、露天風呂。
今日の疲れを溶かして流す、素晴らしき日本の文化よ。
「準備は頼んだ」
「あいあいさー」
あつあつマシュマロを口の中に放り込み、五右衛門風呂を用意しようと立ち上がると。
「あれ………」
暗闇の向こうに光が見えた。
それはこちらに近づいてきて、やがて結界の一歩手前で止まる。
なんだろうと注視していたら。
「皆さん! 衝撃に備えてください!」
イカネさんの警告が終わらないうちに、そこから炎が吹き上がり、結界が破壊された。
熱風が襲いかかってきて、冷気は吹き飛ぶ。
私に覆い被さるように庇ってくれたイカネさんは、視界が晴れる前に神界に帰る。
結界を破った人達は、ゆっくり私たちの前に歩み出る。
「こーんなところにいたんだね」
それは、とてもよく聞き覚えのある声で、高笑いする。
「アタシのフィールドで隠れられると思った?」
淡いピンクのワンピースという、およそキャンプと合わない服装の彼女は、性格悪そうな発言をしているというのに不細工を知らない、どこまでも顔面が天才な美少女だ。
その隣には、微笑みを絶やさないイケメン彼氏君がいる。