それは、昨晩の事だった。

大広間に当主と陽橘派が揃う中。



「火置、どういうことか説明せよ」



我は、当主に追及されていた。



「陽橘から報告があった。お主が、コノハナサクヤヒメの生まれ変わりを狙ったと」



「誤解でございます。我は、陽橘様の為、スサノオノミコトを始末しようとしたのです。決して、コノハナサクヤヒメ様を狙ってはおりません」



もともと潜入は我の得意とするところ。

術で姿を変え、周囲の記憶を少々いじり、教育実習生として桜陰の学校に潜り込むのは造作もない。

この能力で火宮家の筆頭に召し上げられたのだ。

そして幸運な事に、すぐスサノオノミコトの生まれ変わりとの接触に成功したのだ。

あとは簡単。

式に後をつけさせ、家を特定。

条件式の呪いを設置するだけの簡単なお仕事。


の、はずだった。


スサノオノミコトの家に設置したはずのそれを、コノハナサクヤヒメと陽橘が触れたのは計算外だった。

家を間違えたなんてことはありえない。

確かに、スサノオノミコトの入った家に設置したのだ。



「陽橘の報告では、コノハナサクヤヒメの生まれ変わりの家に仕掛けられていたそうだが」



「そんなはずは………!」



もしや、我の気づかぬうちに解除して、コノハナサクヤヒメの家に設置し直したとでもいうのか。

でなければ、我の追跡を察して、コノハナサクヤヒメの家に我が物顔で侵入したとしか考えられない。

制服から着替えて家を出るところまで見たのだ。



陽橘とコノハナサクヤヒメと遭遇する危険を犯してまで我を嵌めたと言う事実に戦慄する。

恐ろしい娘だ。



「生まれ変わりに関しては、手を出すなと言ったはずだが」



「当主様も、あれに味方するスサノオノミコトの生まれ変わりは邪魔でしょう!?」



「手を出すなと言ったはずだ」



再度強く言われ、押し黙る。

様子見とは言っていた。

それが手を出すなと同義であろうこともわからなくもない。

だが、この遠回しに嵌めようとする当主も気に食わない。



「貴様はこの時をもって破門とする。二度と火宮家の視界に入ることまかりならん」



「お待ちください当主様! 我がどれだけ火宮家に尽くしてきたか、お忘れですか!」



「最近の行動は目に余るものがあって困っていたよ」



当主が手を払うと、我は熱い炎に包まれた。



「グアアアアアァァァァァァー!」



「昔はよき家臣であった。残念に思う」



当主は無感情に、我に見向きもしない。

他集まっている者たちも同様。



「火宮家を出たら火が消える。せめてもの温情だ。とっとと去るがいい」



「クソッ!」



我は炎に耐えきれず、火宮家を出るしかなかった。


今まで尽くしてきた我を破門したこと、後悔させてやる。

せいぜい覚えていやがれ。

当主、陽橘、コノハナサクヤヒメ、桜陰、そしてスサノオノミコト。



「必ず復讐してやる」